業界の大規模再編にオリパラ・大統領選挙。 変化の時代に求められる、本質的なデジタルシフト。

ZHD・LINEの経営統合の影響で、様々な業界が再編へ

ー2019年を振り返り、2020年はどのような変化が起こるでしょうか。

田中:2019年最大の経済ニュースといえば、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(以下、ZHD)とLINEの経営統合です。両社が提供するアプリの月間利用者数は単純合算で1億人を超えており、統合の発表時には、米中に次ぐ、世界の第三極になっていくという発言も見られました。実際にGAFABATHに次いで第三極になれるのかは定かではありませんが、国内では一強。非常に期待が持てるニュースでした。

拙著『ソフトバンクで占う2025年の世界』でも詳しく解説していますが、両社の経営統合の狙いは、スマホ決済アプリ「PayPay」「LINE Pay」を顧客接点として、ソフトバンクグループ、LINEでシナジーを創出し、EC・小売・金融・モビリティーなど、生活全般に関わる多様なサービスに顧客を誘導するエコシステムを構築することです。私はこのエコシステムを「スーパーアプリ経済圏」と呼んでおり、その全体構造は以下のような図になります。
2020年は、この統合の影響を受けて色々な業界で再編が起こるでしょう。

スマホ決済の分野では、2019年12月19日に、LINE、メルペイ、ドコモ、KDDIの4社が参画している加盟店アライアンス「Mobile Payment Alliance」が業務提携を解消し、活動を終了。言うまでもなく、ZHDの親会社であるソフトバンクとNTTはそもそも国内通信事業で1番の競合先。両社の経営統合は、単なる統合に止まらず、玉突きで金融・通信業界の大きな再編につながる起爆剤となる可能性を秘めています。

銀行・証券の分野でいえば、ZHDは三井住友銀行が出資するジャパンネット銀行を傘下に持ち、2019年10月にSBIグループと金融分野で提携しています。一方、 LINEは2020年度中にみずほ銀行と新たな銀行を共同で設立する予定であるほか、証券では野村ホールディングス、保険では損害保険ジャパンと提携しています。SBIホールディングス代表取締役社長CEOの北尾吉孝氏は元々野村證券出身。LINE側のパートナーの野村ホールディングスからすると、簡単に組み難い相手です。

このように、2020年は金融・決済・通信など、様々な業界を巻き込んだ再編機運が確実に高まり、一段の注目が集まると見られます。

2020年の金融経済予測、オリパラ・大統領選に注目を

ー2020年といえば、東京オリンピック・パラリンピックの開催ですが、ビジネスにはどのような影響があるでしょうか。

田中:オリンピックが開催される7月24日からパラリンピックが終了する9月6日まで、東京は様々なテクノロジーのショールームになることが予想されます。扱われるのは自動運転やロボット、AI、8Kなどの先端テクノロジー。インバウンドでの来客が予想されるので、経済としては上り調子で、大会終了後からが本当の勝負になるでしょう。

ー金融経済のマクロ的な話として、ドル円相場の動向はどのようになっていくでしょうか。

田中:ドル円相場に影響を与える要因として、私は米国株式市場の動向、米中新冷戦の状況、日米金利差に特に注目しています。マクロ的には日米金利差が最大の注目数値ですが、2020年最大のドル円相場要因は、米国大統領選挙になるでしょう。

トランプ大統領が就任して以降、米株安になると支持率が下がり不支持率が上がるという傾向が指摘されています。トランプ自身が株価を気にしているので、11月の大統領選挙に向けて株高に誘導するための施策を取り、ドル円相場は円安方向に触れやすくなると予想できます。もちろん、貿易摩擦の兼ね合いから、行き過ぎた円安になると、円高方向に戻す発言が出てくるかもしれないですが、基本的には株高に誘導するためのドル高・円安方向になっていくと思います。

米中新冷戦については、テクノロジー覇権を巡る戦いなので、引き続き簡単には収束するものではないですが、行き過ぎた新冷戦は株式市場にマイナスとなるので、影響が出過ぎないようにコントロールしてくるでしょう。

そんな中、ビジネスパーソンとしては、地政学リスクなどの不透明感が高まる一方で、テクノロジーの進化は鮮明になるので、自分にとっても家計にとってもより一層の自己投資が必要になります。そういう意味では、金融投資と自己投資をかねて、これを気に余裕資産の一部をドル資産に変えて、米国経済や大統領選挙に興味を持ってみるのも良いかもしれません。

企業DNAレベルでのデジタルシフトが求められる時代

ー最後に、企業のデジタルシフトについて、2020年はどのようなことが重要になるでしょうか。

田中:2020年のデジタルシフトについて、一番重要なのは、各企業の事業の中核、本質をデジタル化し、進化・アップデートさせていくことです。これだけテクノロジーの進化が激しく、色々なテクノロジーの社会実装が米中で相次ぐ中で、小手先の商品サービス、戦術レベルの変化では意味がありません。ミッションやビジョン、戦略から刷新する必要があります。そういった意味では、企業のDNAをスタートアップ企業のようにスピーディーなものに刷新することが求められていると感じます。

もちろん、DNAレベルの刷新に取り組むことは、大企業においては難しい部分もあるかもしれません。それでも、ビジネスリーダーとしては、まず自分自身のスキル、問題意識、使命感を進化・アップデートさせることに取り組んでいくべきだと考えています。

プロフィール

田中道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。

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