【保存版】全企業の経営者・DX推進者に贈る、デジタルシフトを成功に導く10箇条

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、デジタル化が遅れていると言われ続けていた日本でも「デジタルシフト」「DX」という言葉を聞かない日はありません。しかし、その重要度や緊急度に対して、正しく認識できていない企業・経営者はまだ多いというのが現状です。

アメリカのコンサルティングファーム「イノサイト」によると、S&P500を構成する企業の平均寿命は年々低下してきており、2027年にはわずか12年になると予想されています。自動車に保険、ヘルスケアから不動産まで、GAFAをはじめとする巨大テック企業の影響を受けない業界は、今や皆無と言っても過言ではありません。あらゆる業種・業界が飲み込まれる「デジタル産業革命」待ったなしの現在、具体的にどのような手順、心構えでデジタルシフトに臨むべきなのか? 事業ドメインをデジタルシフト事業へと変更し、多くの産業・企業のDXを支援している株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長の鉢嶺 登氏は、「中途半端にDXに着手する企業は大抵失敗する」と語ります。

今回は、多くの企業のDXを支援してきたからこそ分かる、デジタルシフト成功の秘訣を鉢嶺氏に伺いました。

「守り」と「攻め」のDXでは、内容も推進者の役割も異なる

デジタルシフトには大きく分けて「守りのDX」と「攻めのDX」の2種類があります。「守りのDX」をひとことで表すと「アナログからデジタルへの移行」のこと。紙などのアナログデータのデジタル化(=デジタイゼーション)に加えて、従来の業務プロセスをデジタルに置き替える(=デジタライゼーション)ことで業務効率の向上を図ります。例えば、国や自治体が推進するDXはすべて「守りのDX」となります。「守りのDX」を統括する「CIO(Chief Information Officer)」には、情報システム部門の人物が適任です。

一方、本来の意味でのDXである「攻めのDX」は、デジタル産業革命による社会変革を適切に把握し、時代に合わせてビジネスモデルそのものを大胆に変革、もしくはアップグレードすることです。例えば自動運転技術の進歩や、カーシェアの普及により、自動車をつくって販売するというこれまでのビジネスモデルは成り立たなくなるかもしれず、また、完全な自動運転が確立されれば自動車保険が不要になる日が来るかもしれません。この「攻めのDX」を推進する「CDO(Chief Digital Officer)」は、デジタルを活用するだけでなく、デジタルを用いてビジネスを構築していく役割があるため、人選はとても重要です。この人選が適切に行えるか否かで、その後のDXの進展度合いは大きく変わってくるでしょう。DXに成功している企業は外部からCDOを登用するなど、CDO選びを慎重かつ積極的に行っています。外部からCDOを登用している企業の例としては、海外では非デジタルネイティブ企業でありながら、デジタルシフトに成功した企業として知られるウォルマートのほか、日本ではカインズ、出光興産などがあります。

DXの進め方としては、「守りのDX」で成果(コストダウン、業務効率の向上)を出してから「攻めのDX」に進むケース(図内A)が大半ですが、中にはいきなり「攻めのDX」を実施する(図内B)企業もあります。GAFAやスタートアップなどは、最初からデジタルをベースとしたビジネスを行っているため「守りのDX」の必要はなく、常に「攻めのDX」を行っています。

「攻めのDX」を推進するための“最初の4ステップ”とは

次は、「攻めのDX」に向けた一歩目を踏み出すにあたって重要な最初の4ステップについて解説します。

1. 変革推進者の任命
DXを推進するCDOには、社内でのコンセンサスを得られるだけの交渉力と政治力を備え、新規事業を開拓するパワーが求められます。これらをできない人が任命された場合、DXの前途は多難になるでしょう。

2. 経営層の意識改革
「とりあえずDXを推進しよう」程度の意識でDXは成功しません。DXによる新規事業の多くは赤字スタートとなり、収益化までに時間を要します。いかにCDOが有能でも、横に並ぶ経営層(CxO)の理解がなければDXの成功はないでしょう。

3. 全社員のリテラシー教育
DXの基礎知識はもちろん、GAFAの最新動向、海外の最新ビジネスモデルなどの知識は必須です。デジタルについて分からないということは、これからの時代、日本語が話せないのと同じような意味を持つでしょう。

4. 4職種の人材でチーム編成
CDOをリーダーに据え、以下の職種を束ねたDX推進チームを立ち上げましょう。
これらの人材をすべてそろえることは、あくまで理想です。内部での確保が難しい場合には、外部人材の登用を積極的に行いましょう。その際、DX推進チームを外注先にすべて丸投げしないことが重要なポイントです。従来のシステム開発のように全工程を外部に委託してしまうと、少しの仕様変更にも時間とコストが発生してしまい、機動力が損なわれます。

デジタルシフトを成功に導く10箇条

本腰を入れてデジタルシフトを推進し、成功させるために、経営トップとCDOが共通認識を持っておきたい10の心構えがあります。それぞれ、順に見ていきましょう。

例えば、Amazonは単なるECサイトではありません。自動運転技術や自動車搭載OSの開発も進め、ヘルスケア業界にも進出を図っています。コロナ禍でアメリカでは閉店する小売業が多いように見えますが、今後GAFAの影響は小売だけではなくあらゆる業界に及んでいきます。GAFAの影響、およびデジタルシフトに関係がない産業・企業はないことをまず把握しましょう。
デジタルシフトとは経営課題であり、推進しない企業に未来はないといっても過言ではありません。現場の若手は皆、危機感を持っています。トップ自らがビジョンを語り、変革によるメリットを訴えることが大切です。

DX推進チームに権限を与え、既存組織とは切り分けて設置しましょう。当初は売上も立たず、場合によっては従来のビジネスを破壊する必要も出てくるので、他部署からの反発が生まれがちです。そういった反発から部署を守ることもトップの役割です。

デジタルシフトに成功している企業の多くは、経営トップやCDOが誰よりも情熱を持って推進しています。「周りがやっているから」ではなく、デジタルシフトが不可欠であるという強い意志をトップが持ち、自ら動かないことには社員もついてきません。

デジタルシフトの最終目的は、カスタマーエクスペリエンスの向上です。海外の格安タイヤに席巻されていた、あるタイヤメーカーは、顧客が持つ「タイヤのことをいちいち気にせず走りたい」という深層の課題を読み取り、メンテナンスも含めたタイヤのサブスクサービスを生み出し大きな話題を呼びました。これが顧客起点の思考です。
デジタルシフトは目的達成のための手段です。極端な話、デジタルシフトせずにその目的が達成できるのであれば、無理にDXを進める必要はありません。当たり前なことのようですが、DXを推進できている企業ほどよく理解していることです。

綿密な設計図を必要とするウォーターフォール型の開発は柔軟性に乏しく、細かい仕様変更が発生する度に予算と時間を浪費します。完璧を求めすぎず、まずは今できることから着手しましょう。そのためには、既存システムと切り離すなどのシンプルな環境づくりも重要です。

DX人材をすべて自社で賄う必要はありません。SaaSや人材派遣サービスなどの外部リソースを活用する、オープンイノベーションに取り組むなど、柔軟性のある組織づくりを目指しましょう。
「攻めのDX」には先行投資が必要です。まずは「守りのDX」から始めることもいいでしょう。小さくても着実な成果を積み重ねていきましょう。結果を出せば経営層を説得しやすくなり、予算の確保も容易になります。

DXが進めば、いずれ必ず業界自体を壊すプレイヤーが出現します。アメリカのIndeedを買収したリクルートのように、他社に破壊される前に自社で率先して壊すくらいの気概が必要です。

「攻めのDX」で先行する大企業。中小企業は堅実に「守りのDX」を進めることを推奨

これから本格的なデジタル産業革命の時代に突入するのは間違いないでしょう。一歩でも早くデジタル化に踏み出した企業が有利になる時代です。そして、DXを成功させた企業が一社でも多く増えれば増えるほど、日本の国力は増大します。現状を見ると、大企業の多くはDXにかける予算が潤沢にあるので、各業界に「攻めのDX」を推進するトップランナーが存在しているように思います。一方、中小企業はそこまでに至っておらず、各社「守りのDX」を着実に進め始めている状況です。いずれにせよ、GAFAの影響を受けない業種・業界は皆無です。各社、DXについてはできることから粛々と進めていくことが肝要です。

鉢嶺 登

株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長

1967年千葉県出身。91年早稲田大学商学部卒。森ビル㈱勤務の後、米国で急成長しているダイレクトマーケティング業を日本で展開するため、94年㈱オプト(現㈱デジタルホールディングス)設立。2004年、JASDAQに上場。2013年、東証一部へ市場変更し、現職。eマーケティング支援にとどまらず、未来のデジタル事業の立上げやベンチャー企業の投資育成にも努め、グループ全体で未来の新事業創造に挑戦している。また、デジタル産業革命の中で、「デジタルシフトカンパニー」に軸足をうつし、㈱デジタルシフトの代表にも就任。日本の企業、社会全体のデジタルシフトを牽引、支援している。主な著書に『GAFAに克つデジタルシフト 経営者のためのデジタル人材革命』(日本経済新聞出版)『ZERO IMPACT あなたのビジネスが消える』(日経BP)がある。

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