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AR活用で“体験する新聞”の可能性に挑戦!日本経済新聞社が新聞×ARの表現アイデアコンテストを開催した理由

日本経済新聞社では、2018年12月にデジタル技術を活用して新聞広告に新しい価値を付加する試み「新聞広告 IoT宣言」を発表。その取り組みのひとつとして、「日経AR」アプリをリリースしました。インストールしたスマートフォンを紙面にかざすと、映像、音楽などリッチなコンテンツ体験ができる、新聞広告の新しいソリューションを展開しています。
2019年秋には新聞×ARの可能性をさらに広げようと、AR表現のアイデアを募るコンテスト「第一回日経ARアワード」を開催。200件を超える応募の中からこのほど受賞作品が決定し、2020年1月29日には表彰式も行われました。
企業の広告宣伝費がインターネット広告へと流れるなか、ARを用いた広告で新聞の新たな価値創造を目指す日本経済新聞社の取り組みについて、プロジェクトを牽引する同社クロスメディアユニット シニアプロデューサーの浦野 創氏、メディアビジネス クロスメディアユニット 広告IoT化推進室 室長の村山 亘氏にお話を伺いました。

※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2020年2月14日に公開された記事を転載したものです。
▼今回お話を伺った方
日本経済新聞社 クロスメディアユニット シニアプロデューサー 浦野 創氏(右)、同メディアビジネス クロスメディアユニット 広告IoT化推進室 室長 兼 日経イノベーション・ラボ 村山 亘氏(左)

日本経済新聞社 クロスメディアユニット シニアプロデューサー 浦野 創氏(右)、同メディアビジネス クロスメディアユニット 広告IoT化推進室 室長 兼 日経イノベーション・ラボ 村山 亘氏(左)

「時代が変化しているからこその再挑戦──」テクノロジーの力で新聞広告の活性化を狙う

――新聞広告を活性化するための方法として、ARに取り組んだ経緯を教えてください。

浦野氏:我々に限らず、企業がデジタル化に取り組む際には2つの方向性があると思います。ひとつは既存のサービスに代わるものをデジタルで提供する完全なデジタライゼーション。もうひとつはデジタルを使って既存のサービスを活性化させるというものです。
我々が取り組んでいるのは後者。厳しい状況が続く既存の新聞広告をデジタルで活性化させるために、最新のデジタルテクノロジーと新聞を組み合わせるのにいくつかあがってきたキーワードのひとつがARでした。
ほかにもいくつかのテクノロジーについて取り組んできましたが、最終的に世に出したのがこの「日経AR」と、「新聞広告IoT宣言」のもうひとつの核である紙面ビューアーを使った新聞広告の効果測定です。

――なぜARだったのでしょうか?

浦野氏:ARは印刷媒体と非常に親和性の高い技術です。実は今から7~8年前にも一度、多くの新聞社がARに取り組んだ時期がありました。日本経済新聞でも編集記事にARのアプリをかざすと、インタビュー動画が見られるといったことをやりましたが、このときは他社と同様に、残念ながら長くは続きませんでした。
それにも関わらず、我々が今回改めてARに着目したのは、当時と今では環境が大きく変化しているからです。ひとつはスマホの普及率。当時に比べて今はリーチが格段に広がっています。またAR技術も大きく進化しています。以前は自社アプリではなく汎用のアプリを使っていたこともありますが、まだ動作が不安定でうまく読み取れなかったり、読み取れても動画がうまく出なかったりといったことがありました。今はそういった精度がものすごくあがっています。また『ポケモンGO』のおかげもあって、ARに対する認知度も高まっています。
そこで、「もう一度ARをやってみよう」ということになりました。ただ「日経AR」アプリを出すと発表したときの業界関係者の反応は、一様に「なぜ今さら?」というものでした。しかし、環境がこれだけ大きく変化したのだから、もう一度挑戦する価値はあると判断し、取り組みをスタートさせました。

――今、新たな環境で取り組む新聞×ARに、どのような効果を期待されていますか?

浦野氏:今回は「新聞広告IoT宣言」の取り組みとしてスタートしていますので、まずは新聞広告の表現をよりリッチにすることがARに期待されることです。新聞広告にはもちろん新聞ならではの良さがあるのですが、その一方で紙面の限られたスペースで伝えられるものにはどうしても限界があります。その新聞広告に+αして、よりリッチなコンテンツを届けられるのがARです。新たにARを組み合わせることで、新聞から少し遠ざかっていた広告主や読者にもう一度目を向けてもらう。これが一番の目的になります。

独自アプリ「日経AR」を日経IDと連携し、読者のアクションを可視化

――今回の取り組みでは、そのために「日経AR」という専用アプリも開発されています。以前のような汎用アプリではなく、自社でアプリ開発をすることにしたのはなぜですか?

村山氏:自社アプリにした最大の理由は、読者のアクションを可視化できるからです。先ほど「新聞広告IoT宣言」のもうひとつの取り組みとして、紙面ビューアーを使った新聞広告の効果測定を紹介しましたが、やはり読者の反応が見たいのです。さらに我々には日経IDという認証システムがありますので、そのデータと連携することでより強みが出せると考えています。
とはいえ、我々はもともと広告畑の人間で、アプリ開発のノウハウもありませんでしたので、「日経AR」アプリの開発は本当に大変でした。ただそれよりももっと大変だったのが、社内外に対して「今の新聞×ARで何ができるのか」という認知を広めることでした。以前に比べてARの認知度が上がったとは言っても、人によってもっているイメージはさまざまだからです。

浦野氏:何ができるかがわからなければ、そもそもアプリをダウンロードしてもらえないし、使ってもらえませんから、そこをどう知ってもらうか。たとえば、「新聞広告IoT宣言」の発表時には、話題になるようなアドバルーンをぶち上げようということで、「日経AR」アプリを紙面にかざすと矢沢永吉さんの動画が見られるという施策も実施しました。このときだけでなく、どうすれば誰にでもわかりやすく伝わるコンテンツになるのか、どういう見せ方をすればいいのかといったことを、模索し続けてきました。

――新聞×ARならではのコンテンツとして、とくに意識されているのはどういう点ですか?

村山氏:やはり、そこでしか見られないものをつくることが重要だと思っています。先ほどの矢沢永吉さんのメッセージも撮り下ろしで、冒頭に「日本経済新聞をご覧の皆さん」と語りかけてもらいましたし、ブライアン・メイさんのAR広告を掲載した時も、インタビュー動画は同様に、「Hi, Nikkei readers」という言葉からスタートしてもらいました。
通りいっぺんの動画や、単にWEBサイトにリンクするだけではアプリをかざしてまで見てもらえない。一方で、必然性のあるコンテンツであれば見て驚いてくれるし、関心をもってくれるというのをここまでやってきて実感しているところです。
まだ「これが日本経済新聞のARコンテンツだ」と言えるものを確立できているわけではありませんが、読者にとってどういうメリットやベネフィットがあるのかということは、コンテンツをつくるうえで常に意識しています。

新聞×ARの可能性を模索するため、表現のアイデアを募るコンテストを開催

画像:日経ARアワードのグランプリ受賞作品「家族時間が、生まれる家」

画像:日経ARアワードのグランプリ受賞作品「家族時間が、生まれる家」

――昨年は新聞×ARでのコンテンツ表現のアイデアを募るコンテストも開催されました。この「日経ARアワード」は、どのような経緯で開催されたのでしょうか?

浦野氏:これまで、新聞×ARでどんなことができるのか、どういうコンテンツなら読者に届くのかをプロジェクトチームのメンバーが集まって考え、3Dや動画のモックをつくりながら試行錯誤を重ねてきました。しかし、どうしてもメンバーだけでは発想に限度がある。そこで、もっと多くの人にコンテンツを考えてもらえば、いろいろなアイデアが出てくるのではないかと考えました。多くのアイデアを募るためにコンテスト形式にして、優れたアイデアを表彰するような形にしようということで、開催を決めました。

――第1回「日経ARアワード」を終えて、今どのような手応えを感じていらっしゃいますか?

浦野氏:第1回ということで、どの程度のクオリティのものがどのくらい集まるのか不安だったのですが、結果的に予想を上回る数の応募をいただきました。募集にあたってはARの技術を競うコンテストにならないように、あくまでARを使った新聞広告の表現のアイデアを募るものであることが伝わるように気をつけました。そのために募集要項の書き方を工夫したり、各所に説明に出向いたりしたのですが、それが功を奏したと言えるかもしれません。
技術的に先進性を追求したような作品ではなく、広告として落とし込んだときに面白いアイデアが集まってきたので、そこはすごく良かったですね。やはり動画を使ったり、3Dの映像を使ったりしたものがメインではありましたが、我々では想定できなかった斬新なアイデアもたくさんありました。
画像:日経ARアワードの日本経済新聞社賞受賞作品「CSAR」

画像:日経ARアワードの日本経済新聞社賞受賞作品「CSAR」

たとえば今回、日本経済新聞社賞を受賞した「CSAR」という作品は、災害報道の記事をARアプリでスキャンすると、災害の状況の動画が流れるというもの。加えてそこに決済機能をもたせて、報道を見て何かしたいと思った人が、ワンクリックで寄付できるという社会貢献性のあるアイデアです。動画も決済もテクノロジーとしては新しいものではありませんが、それを組み合わせることで、新聞社として実施する価値のある企画になっています。
審査にあたり審査員がポイントにしたのも、「ARの必然性」と「参加したくなる」ということ。ほかにも賞の対象となった作品には、実際にアプリをかざしたくなる、かざすことによって新聞×ARの世界に参加したいというモチベーションが高まるようなアイデアが数多くエントリーされています。

――第1回「日経ARアワード」成功のポイントを、どのように分析されていますか?また次回に向けた課題があれば教えてください。

浦野氏:成功かどうかの判断には、応募の質と量、両面があると思うのですが、量でいえばアイデアを募るコンテストということで、応募しやすく設定したことが良かったのかもしれません。一方で、質という点ではかなりばらつきがありました。そのばらつきの原因のひとつは、「今のAR技術で何ができて何ができないのか」という共通認識がもてていないことで、これは次への課題です。
今回やってみて改めて思ったのは、やはり読者がARをかざしたくなるという、その視点でコンテンツをつくらなければならないということ。ARを生かすには、広告主の意向だけに従ってコンテンツをつくっていてはダメで、やはり読者にとって何がおもしろいのか、それを紙面でどうつなげてスマホをかざすモチベーションにするかが一番大事だということを感じました。

最先端の技術で驚かせるだけでなく、それをどう役立ててもらうかが重要

画像:日経ARアワードのグランプリ受賞作品「家族時間が、生まれる家」の空間認識機能によるアイデアの再現デモ

画像:日経ARアワードのグランプリ受賞作品「家族時間が、生まれる家」の空間認識機能によるアイデアの再現デモ

――新聞広告×ARで今後やってみたいこと、「日経AR」の今後に期待することを教えてください。

浦野氏​: 「日経AR」アプリでは、日経IDとの連携で広告を見て反応したのがどういう人かが分析できるだけでなく、ビジネスパーソン向けにはこれ、リタイヤされた方にはこれというように、その人の属性によって表示するコンテンツを変えることもできます。つまりパーソナライズされた表現が可能なので、そこはぜひ挑戦したいですね。日経の読者は、ほかの新聞社とも、テレビともデジタル媒体とも属性が違う。その人たちに向けてデジタルコンテンツを出せるのが我々の大きな強みなので、今後も日本経済新聞社としてやる必然性や日経IDとの連携生かすことを考えていきたいと思います。
逆にいえば、日経としてやる必然性のあるもの、我々の強みを生かせるものであれば、必ずしも最先端の技術を用いたものである必要はないとも思っています。もちろん今、最先端のARでどういうことができるかという情報は常にキャッチアップしておく必要がありますが、我々がやるべきことは、ARテクノロジーの先進性をグーグルやアップルと競うことではないので。

村山氏:多くの読者に喜んでもらうためには、テクノロジーの最先端を追うことよりも、テクノロジーを使ってどう楽しんでもらうか、参加してもらうかを考える方が大切です。新聞というプラットフォームは、そこを読者が習慣的に訪れるのが強みなので、その習慣性をうまく生かしたARの活用方法を模索していければと思います。

浦野氏:新聞×ARで表現を豊かにするだけでなく、実用性も考えたいですね。たとえば先日、日本経済新聞にアップルのティム・クックCEOのインタビューが出ていました。アップルはARを次のコアテクノロジーだと考えているという話のなかで、ビジネスと教育、ECという領域を取り上げていました。この3つは、実は新聞とも相性がいい。たとえば新聞をARでスキャンして、そこからすぐに購買行動につなげたり、新聞×ARを教育に活用する方向性も想定できます。楽しいだけじゃなく、読者のためになり、習慣的に使いたくなるような、そんな取り組みができればうれしいです。

――今後も新聞×ARに取り組んでいくにあたり、ARという技術の進歩について期待されることはなんでしょうか?

村山氏:ARの技術もそうですが、通信が5Gになったときにどうなるのか、どこまで表現できるようになるかは期待しています。ダウンロードにストレスがなくなれば、ホログラムや3Dといったよりリッチなコンテンツを出せるし、動画の尺も長く取れます。すぐに誰もが使えるようになるわけでないので、そこは様子を見ながらですが、我々としても準備は必要だと思っています。

浦野氏:あとはデバイスの多様化ですね。今はスマートフォンやタブレットでスキャンするやり方ですが、もしARグラスが普及すれば、コンテンツの表現の方法も役割も全然違ってくると思います。スマホだと、かざすというワンアクションが必要ですが、ARグラスになると利用のハードルはぐっと下がります。たとえばARグラスをつけて新聞を読むと、いろいろな情報が浮かび上がるといったことは、近い将来できるようになるでしょう。

村山氏:読者が新聞を読むのは何かを知りたいからなので、その知的好奇心にきちんと応えていくのが我々の使命です。テクノロジーの進化で紙面以上のことができるようになれば、それを使ってさらに読者の知的好奇心に応えていきたいと思います。

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