【業界別・デジタルシフト実態調査】コロナ禍を経てなお、60%超の企業がデジタルシフト未着手

Digital Shift Times編集部では、デジタル庁の定めた「デジタル月間(※)」に合わせ、業界別でのデジタルシフトの実態調査を実施しました。

「デジタルの日」である10月3日に「【保存版】DXの挑戦者たちに学ぶ、10の格言」を公開しており、今回の調査は「デジタル月間」に合わせた企画の第2弾です。「デジタル敗戦国」ともいわれる日本の現状を明らかにすべく、今回は業界別にデジタルシフトの進み具合を調査しました。各業界の実情はいかなるものか、調査結果から見えてきた実態をお届けします。

※2022年の「デジタル月間」は、10月2日・3日の「デジタルの日」を含む10月1日から10月31日までの1ヵ月間で、「ふれよう!#デジタルのチカラ」をテーマにしています。

ざっくりまとめ

・デジタルシフトに取り組んでいる企業は37.4%で、60%超の企業がデジタルシフトに未着手。

・デジタルシフトに積極的な業界は「行政」や「情報通信」で、消極的な業界は「農業・林業・漁業・鉱業」「不動産」。

・フロント業務のデジタルシフトへのニーズは高いが、現在デジタルシフトが進んでいる業務はバックオフィス業務が中心となっている。
<調査概要>
●調査目的:業界別のデジタルシフトの実態と今後のポテンシャルを調査
●回答者数:650名(13業種×50名)
●調査期間:2022/10/11~2022/10/12
●調査方法:インターネット調査
●調査対象者
 性別:指定なし 年齢:20歳以上 地域:全国 職業:有職者
 業種:農業・林業・漁業・鉱業
    建設業
    不動産(賃貸含)
    製造業
    小売(卸売・メーカー含)
    エネルギー・インフラ業(電気・ガス・熱・水道含)
    情報通信(広告含)
    物流(運送・郵便・廃棄物/リサイクル含)
    金融(保険含)
    教育
    サービス(宿泊・飲食・人材・旅行・その他含)
    医療・福祉(医薬品含)
    行政

約60%の企業がデジタルシフトに未着手

デジタルシフトについて「取り組んでいる」と回答したのは全体の37.4%で、60%超の企業がデジタルシフトに未着手という実態が明らかになりました。
業界別にみると、「取り組んでいる」という回答が多かったデジタルシフトに積極的な業界は、上から「行政(72.0%)」「情報通信(62.0%)」「エネルギー・インフラ業(50.0%)」でした。また、「現状取り組んでおらず、予定もない」という回答が目立ったデジタルシフトに消極的な業界は、上から「農業・林業・漁業・鉱業(74.0%)」「不動産(66.0%)」「医療・福祉(58.0%)」という結果になりました。

デジタルシフトの取り組みは約70%が成果を実感

デジタルシフトに「取り組んでいる」と回答した人のうち69.5%が「成果が出ている(※「とても成果が出ている」と「少しは成果が出ている」の合計)」と答えました。業界別にみると、「成果が出ている」が多かったのは、上から「教育(90.9%)」「不動産(88.9%)」「物流(85.7%)」でした。

デジタルシフトへの課題は「予算」「人材」「業界のハードル」

デジタルシフトに取り組む上での課題は、全体として「十分な予算が確保できない(23.1%)」「適切な人材がいない(19.4%)」「業界的にハードルが高い(9.2%)」「業務を横断するハードルが高い(9.2%)」という項目が上位となりました。一方で、52.2%が「特に課題はない/なかった」と回答しました。なかでも、デジタルシフトに消極的だった「不動産」や「小売」業界では、この回答の割合が高く、現状の業務プロセスで危機的状況に陥っていない分野も存在することが示唆されています。

また、「業界的にハードルが高い」「業務を横断するハードルが高い」と答えた人に具体的な内容を聞くと、以下のような回答がありました。

「業界的にハードルが高い」という理由

・対面以外の方法を知らないから(農業・林業・漁業・鉱業)
・横並び意識が強い業界なので、他の動向を見てという感じ(行政)
・業界としてあまり前向きではない(不動産)
・諸所の事情が細分化されすぎていて、統一した対応を取りづらい。(小売)
・運送業界全体が紙ベースでの取引がほとんどであり、取引先との関係を考えると自身の努力だけではどうにもならない(物流)

「業務を横断するハードルが高い」という理由

・いろいろな業種を抱えており、顧客も多数いるため(サービス)
・個人情報の管理をどうするかと他部門との連携が難しい(行政)
・取引先ごとにシステムがばらばらで対応しきれない(製造業)
・他社とやり取りする場合に同じものを使っていないと、結局メールなどのやり取りになってしまう(情報通信)
・高齢者が多く、なじみそうにない(物流)

デジタルシフトのなかで「DX」に取り組むのは22.6%

※Digital Shift Times編集部では、「デジタルシフト」を大きく三つのフェーズに定義しています。
デジタイゼーション:情報やツールのデジタル化
デジタライゼーション:業務プロセスのデジタル化
DX:デジタルを活用したビジネス変革や事業創出
また、DXを「攻めのDX」、デジタイゼーションとデジタライゼーションを総称して「守りのDX」と呼んでいます。
デジタルシフトの取り組みのなかでも、DXに該当するものは全体の22.6%でした。デジタルシフトに取り組む企業でも、その多くはデジタイゼーションデジタライゼーションに当たる「守りのDX」を進めていることが分かりました。

最も「攻めのDX」に挑戦している業界は「情報通信(38.7%)」でした。一方で、確実に現在の業務をデジタルに移行していく「守りのDX」を進めている業界は「行政(97.2%)」「不動産(88.9%)」「農業・林業・漁業・鉱業(83.3%)」でした。他の業界と比較して新しく、新興企業も多い情報通信業界は「攻めのDX」が多い一方、昔ながらの業界では「守りのDX」が多い結果となりました。

業務別では、バックオフィス業務のデジタルシフトが比較的進む

デジタル化に「取り組んでいる」と回答した人のなかで、デジタル化に取り組んでいる業務は、上から「経理1(支払い・請求などの出納業務関連)(47.7%)」「経理2(経費精算・決済代行関連)(42.0%)」「労務1(給与管理関連)(42.0%)」であることが分かりました。
また、紙などのアナログ情報のデジタルシフトであるデジタイゼーションが進んでいる業務は、上から「営業(64.2%)」「顧客管理・対応(63.4%)」「流通・販売(60.0%)」となりました。さらに、業務プロセスまでデジタル化が進んだデジタライゼーションのフェーズにある業務で多かったものは、上から「労務3(勤怠管理)(54.7%)」「労務1(給与管理関連)(49.0%)」「労務2(労務手続き・書類管理関連)(48.7%)」となり、バックオフィス業務の方が比較的デジタル化の進みが早いことが分かりました。
一方、まだデジタルシフトに取り組んでいない人にとって、デジタルシフトを優先したい業務は、上から「経理1(支払い・請求などの出納業務関連)(25.3%)」「営業(23.8%)」「顧客管理・対応(23.6%)」でした。営業や顧客管理・対応といったフロント業務のデジタル化のニーズが高いことが明らかになりました。

「電話」や「FAX」は根強く残る

全ての業務に共通するコミュニケーションツールについても伺いました。全体をみると、社内コミュニケーションで利用されているものは、上位から「電話(75.1%)」「メール(67.4%)」「LINE(33.5%)」となりました。電話とメールが圧倒的で、「Microsoft Teams」「Slack」「Chatwork」などのビジネスチャットツールの使用は少ないことが分かりました。業界別では、「医療・福祉」と「行政」では、アナログ手法の電話とFAXを合計した割合がそれぞれ、「医療・福祉(48.8%)」「行政(48.7%)」で半数に迫りました。一方、「情報通信」は、他業界と比べて「電話」や「FAX」の割合が少なく、「メール」「Microsoft Teams」「Slack」の割合が高い結果となりました。
社外コミュニケーションでも全体の上位は「電話(80.3%)」「メール(73.7%)」「LINE(30.2%)」と、社内コミュニケーションと同じ傾向が見られました。一方、社外コミュニケーションでは、ほぼ全ての業界で「FAX」の割合が増えており、社外とのやり取りにまだFAXを活用する文化が残っていると推察されます。社内コミュニケーションでアナログ手法が多かった2業界では、社外コミュニケーションでもアナログ手法の割合が高く、「医療・福祉(56.6%)」「行政(58.9%)」と半数を超え、他業界よりも多い結果となりました。

編集部からのコメント

2020年から始まったコロナ禍に伴い、デジタルシフトへの着手があらゆる業界で目の前の共通課題となってから、約3年が経とうとしています。今回の調査では、約60%がデジタルシフトに未着手という実態が明らかになりました。未着手が多いことは、裏を返せば「ポテンシャルは高い」ともいえます。

また、デジタルシフトを阻む要因として、予算や人材不足以外に、「組織構造」や「現在の業務に必要がない」という回答があることに着目しています。デジタルシフト以前の、アナログが主流の時代につくられた業界の慣習や業務プロセスには、一見、デジタルの必要性を感じない部分が往々にして存在するかもしれません。しかし、そのような分野でも、デジタルを用いることで現業をアップデートし、新たなビジネスチャンスや、価値を生み出すことができると私たちは考えています。

そうした事例をさらに探求し、Digital Shift Timesを通してお届けしていくことで、読者の皆さま一人ひとりの背中を押す存在になりたいと考えています。私たちの掲げる「その変革に勇気と希望を」という言葉とともに、企業の変革を後押しできるよう、より一層、精進してまいります。

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