イノベーション

「airCloset」が生み出すのは、ファッションとの新しい出会い アパレル消費を多様化させたサブスク×シェアエコモデル

2014年に創業した株式会社エアークローゼットは、サブスクリプション×シェアリングエコノミーのモデルでアパレル業界に新風を巻き起こした。社名を冠したサービス「airCloset」は、プロのスタイリストが、300ブランド・10万着以上の洋服の中から顧客一人ひとりに合わせてコーディネートした洋服を配送する、月額制のパーソナルスタイリングを提供するサービスだ。返却期限はなく、洗濯やクリーニングも不要。洋服を購入して収納したり、手入れをしたりする必要なく、新しい洋服との出会いが気軽に楽しめる。
しかし代表取締役社長 兼 CEOの天沼聰(あまぬま・さとし)氏は「ファッション業界を変えようとした訳ではない」と話す。まだサブスクリプションモデルやシェアリングエコノミーが一般的ではない時代に、なぜこのモデルを考案したのか。デジタルをどのような役割と位置付けていたのか。話を伺った。

ファッションとの出会いでワクワクを提供する 顧客体験を最上位に据えたサブスク&シェアエコモデル

ーー株式会社エアークローゼットの創業は2014年。当時は、サブスクリプションもシェアリングエコノミーも、今のようにメジャーではなかったと思います。そんな時代に、どうやってビジネスモデルを構築されていったのですか?

ビジネスモデルありきで始めた訳ではないんです。目的に対して最適化していった結果、今のビジネスモデルが生まれたにすぎません。

もともとは、創業メンバーの3人で人々のライフスタイルを豊かにしたいという話をしていました。生活の中で煩わしい時間を減らして、「ワクワクした時間」を増やしていきたい。そんな思いから、衣食住に関連する領域で事業をやろうと決めていたんです。

領域に加えて、軸にしたものが二つあります。一つはデジタル。テクノロジーやインターネットが大好きだったので、それらを最大限に活用したいと考えていました。私自身、小学生の頃からプログラミングをしたりポケットコンピューターを使ったりしてデジタルに親しんでおり、インターネットが出てきた時は、時間と空間を超えたコミュニケーションを実現するテクノロジーに衝撃を受け、これからの社会を変えると確信しました。これまで不可能だったことを可能にし、選択肢を増やすのがテクノロジー、デジタルの力だと思っています。

もう一つ軸にしたのはシェアリングエコノミーです。かつては匿名性が高かったインターネットの世界に、スマートフォンの登場で、一気にリアルが入り込んできました。今やインターネットの中でも信頼関係が築ける時代です。中でも、シェアリングエコノミーは、事業者とお客様との間の信頼関係がないと成り立たない仕組みで、インターネットのポジティブな可能性を示すもの。これをもっと広げていきたいと思いました。
―――衣食住の領域で、デジタルやシェアリングエコノミーを取り入れる。そうした考えのもとに生まれたのが「airCloset」のビジネスモデルだったんですね。

実際には100以上ものアイデアを出し合い作り上げていきました。

そんな中で、女性は男性に比べ、ライフステージが多様で、時間の使い方が人生の中でどんどん変わっていくのではという仮説を立てたんです。仕事が忙しくなるとゆっくりファッション誌を読む時間もなくなり、子どもが生まれると、育児に時間がかかる。新しいブランドやトレンドの着こなしを知る時間がどんどん少なくなっていきます。忙しい中でも、日常の中に新しいファッションやブランドと出会える機会があれば、もっとワクワクする時間を増やせると考えたんです。

その目的に対する最適解が「airCloset」です。例えば、全国各地の様々なお客様が利用できるサービスにするためには、家の近くに店舗がなくても支障がないサービスにしなければいけません。だから、実店舗ではなくインターネット上で展開することにしました。また、自分でお洋服を選んでいると、似たようなものを選びがちです。普段選ばないようなお洋服との偶然の出会いを目指し、自分でお洋服を選ぶのではなく、スタイリストが選ぶ仕組みにしたんです。もちろん、クリーニングや洗濯は大変だから、こちらで全てやるようにし、ワクワクする時間が継続するようにしました。

このビジネスモデルは顧客体験を最上位に置いて組み立てた結果なんです。シェアリングエコノミーも、サブスクリプションも、そしてデジタルも、目的を達成するための手段の一つでした。それにより、ファッションの楽しみ方が「お洋服を買う」というモノの購入から、「サービスを利用する」という体験へと変わりました。モノからコトへの変化も生み出すことができたと感じています。

10万着以上から、個に適した一着を届ける デジタルの強みを最大限に活かす

ーインターネット上のサービスだけでなく、エイブルとコラボしたリアル店舗、ファッションレンタルショップ「airCloset×ABLE」も運営していらっしゃいますが、リアルとデジタルの違いや使い分けを、どのように考えていますか?

リアルもデジタルも、両者に違いはないと思っています。大事なのは、コミュニケーションプロトコルの違いです。同じリアルでも、店舗でのコミュニケーションとポップアップショップでのコミュニケーションは違うじゃないですか。コミュニケーションの目的に対して、必要な手段を取るべきだと考えています。

例えば私たちは、スタイリングの重要性を体験してもらう場としてリアル店舗を作りました。直接コミュニケーションをとってスタイリングしてもらうことが、より大きな価値になるお客様もいますし、スタイリストにとっても、お客様と対面してコミュニケーションを取ることでスタイリングの質を上げる機会になります。さらにインターネット上よりも圧倒的にコミュニケーション速度が速い。新しいことを試すことができる場でもあります。そこで得たものを、デジタルのサービスにも反映するようにしていますね。

ーデジタルとリアルという分け方で考えるのではなく、あくまで目的に対する手段として使い分けるべきということですね。特に、目的に対してデジタルが生きるのはどんなときでしょうか。

効率化や最適化にはデジタルが有効です。例えば、スタイリストが10万着以上もあるお洋服の中から個人に最適なお洋服を選ぶのはとても大変です。しかしデジタルを使うことで、アイテムを一覧化し、カテゴライズして必要なお洋服を選びやすくなります。また、お客様の住んでいる地域の1週間の天気・気温のデータをとることで、地域の気候に合ったお洋服をお届けしています

身長や体型に合わせたご提案も可能ですね。お送りしたスカートの丈感についてアンケートをとると、59センチだと短いけれど、63センチだと長いという答えが返ってきた。ならば、60~62センチの範囲が適切なんだとわかるようになります。

またスタイリスト側も場所に関係なく働けます。実際、海外で働く人もいますし、地方へ移住した人もいるんです。

「airCloset」では、これまで数百万以上のコーディネートが生まれましたが、一つとして同じものはありません。デジタルだからこそ、より個人に最適化したサービスを効率的に届けられると考えています。

情報過多な時代に、最適なファッションとの出会いを生み出す

ー創業から5年が経った今、当初の目標に対しての手応えはいかがですか。

お客様からは、私たちのサービスを使って新しいお洋服に出会えたという声をいただくことが増えました。アパレルブランド様からも、お客様との出会いの場になったという声をいただいています。これまでのように広告を出せばお客様と出会える時代ではなくなった今、「airCloset」は「着てもらう」という体験を届けられる一つの手段です。ブランド様も「着てもらえさえすれば必ず気に入ってもらえる」という信念を持ってものづくりをされているので、出会いの場を作れていることは大きいと思います。

商業施設内にテナントを構える複数ブランドを横断して、我々が自由にコーディネートを提案するという取り組みも行なっています。これまでは各ブランドが単体でコーディネートの提案をしていましたが、「airCloset」で全てのブランドのお洋服をミックスして、自由にコーディネートをしていいと任せていただいたんです。実際、日常では色々なブランドをミックスしてコーディネートを楽しんでいますよね。ライフスタイルが変化していく中で、ブランド側の柔軟性も増していると感じます。

ー最後に、今後取り組みたいことを教えてください。

アクセサリーや小物など提供できるアイテムの範囲を広げているほか、女性だけでなく男性や子供、シニアの方にも提供できるようにしていきたいと考えています。海外進出も視野に入れていて、日本にいながら海外のファッションブランドのお洋服をシェアできたり、海外のスタイリストにスタイリングしてもらうことができる。逆に、日本のブランドのお洋服や、日本人スタイリストのスタイリングを、海外の至る所で目にするようにしたいんです。

今、世界では1日で2700万のコンテンツが生まれると言われています。1日が24時間しかない中で、いかに自分の人生にとっていい情報に出会えるかが大事な時代になっていると感じるんです。SNSやキュレーションメディアなど、個人に最適化された情報を提供できるサービスは理にかなっていますし、今後ますます重要視されます。

そして、それは情報だけでなく、ものも同じです。様々なものが生産され、選択肢は増え続けている。その中で、自分が人生の中で出会うべきお洋服、ファッションは何か。そこを見つけるお手伝いできることが「ワクワクする時間」を増やす出発点だと思っています。ワクワクする時間が増えてそれが当たり前になったとき、ライフスタイル自体が底上げされた世界が実現するはず。そこに向けて、個人が最適な出会いを果たすお手伝いを続けていきたいと思います。