コメ兵がいち早くオムニチャネル化を実現できた理由

ブランドリユース業界の大手「コメ兵」。実は同社は、2000年代の初頭からデジタル対応に取り組み、ECサイトにオウンドメディアの活用、社内にチャットツールの導入、そして現在は真贋判定にAIの導入を発表するなど、業界の中でデジタルシフトをいち早く進めてきた。

コメ兵のデジタルシフト成功の秘訣とは、また企業がデジタルシフトを行う際に意識すべき点は何なのかを、同社の執行役員マーケティング統括部長である、藤原義昭氏に伺った。

■「ネットで商品を見た」というお客様の登場

――藤原さんはコメ兵が2000年からEC事業を始める際に、自分がやると真っ先に手をあげ、その後も積極的にデジタルシフトを進めてきたとうかがっています。コメ兵のデジタルシフトは、どのように進んできたのでしょうか?

まず前提として、私はデジタルシフトは、手段でしかないと思っています。「デジタルシフトしよう」と思ってすることではない。うちはBtoC企業なので、デジタルの取り組みを始めたとき、重要視したのは2つの点です。ひとつはお客様に対して、どうやってデジタルでコミュニケーションするか。もうひとつは、社内のデジタル対応をいかに行っていくか。これはスタッフの教育ですね。

私の場合、その両方に携わっています。まず、最初にお客様とのコミュニケーションについてお話しましょう。

弊社は2000年にEC事業に参入しました。まだ「ネット通販」と呼ばれていた頃です。その頃の社内は事業部制になっていまして、ジュエリー、ブランドバック、洋服、時計……と扱う商材ごとに事業部が分かれていました。当時の私はジュエリー事業部にいましたから、まずジュエリーのECを担当しました。それでジュエリーのECサイトができると、ほかの事業部でも同じトンマナでサイトを作っていきました。

ただ、うちはブランドリユースの会社ですから、ジュエリーだと高いものになると、1千万円くらいするわけですよ。最初はそういう高価な商品をいかにECで売るかってことを考えていたんですけど、やっぱり難しいわけです。それであれこれ悩んでいるうちに、店舗を訪れたお客様から、「ネットで商品を見たんだけど」という声が出始めました。

当時はまだスマートフォンの登場前だったので、PCでうちのサイトを見たお客様が、商品のページをプリントアウトして来店するようになったんですね。リユースは中古品なので、商品自体は同じでも一品一品状態が違います。だから当然の消費者心理として、いきなりECでポチッと購入するのではなく、実物を確かめてから買いたい。そういうニーズがお客様にあることがわかったので、「この商品をお店で見られます」という“予約”みたいな機能をサイトに組み入れました。そうすると、ECサイトで直接購入しなくても、その“予約”の利用はものすごくありました。

つまり、私たちがデジタル対応を始める前から、お客様はすでにデジタル化していたわけです。弊社がデジタルシフトを進めていったのは、お客様のほうが先にデジタル化していたので、そのニーズにいかに追いつくかということを考えた結果なんです。

■評価と予算の仕組みによって社内のデジタルシフトを推進

――大きな戦略のもとでも変化というより、消費者の変化に追いつこうとしてきた結果、デジタルシフトが進んだ、と?

いつの時代もお客様のほうが企業の先を行っているのだと思います。そこで次に社内のデジタル化です。弊社は2012年頃に、事業部制の組織から、機能制の組織に変わっていきました。どういうことかというと、それまで取り扱う商材ごとに事業部が分かれていたのを、仕入れ、メンテナンス、販売というバリューチェーンの中での機能ごとに部署を分けていったんです。

我々が通常の小売業と違うのは、商品が1点ものなので、EC在庫、店舗在庫という考え方がない。物流センターに入った商品は、基本的に店舗に出しています。だから、ECサイトでも店舗の商品を併売するというかたちをとっていました。

ただ、ここで問題になるのが在庫管理です。ECサイトでも店舗でも同じ商品を売っているので、店舗で売り切れたのに、それがサイトに反映されてなかったらお客様はがっかりする。だから事業部ごとにバラバラだったサイトもひとつにまとめて、店舗とECの部隊が連動する仕組みを社内に作る必要がありました。

――小売業におけるデジタルシフトの例としてよくあげられる“オムニチャネル戦略”の実現ですね。

しかし、サイトを統合しても、社員の気持ちはひとつじゃないんです。店舗のスタッフは店舗の売り上げを上げたいし、ECサイトの担当スタッフはECの売り上げを上げたい。バラバラです。でもお客様には、そんなことは関係ない。店舗でもECでも同じブランド体験をしてもらうことがオムニチャネル化なのであれば、そこをひとつにしていかなければなりません。その作業は今でも日々取り組んでいます。

――その気持をひとつにするために、藤原さんが取り組んでいることは?

評価の仕組みを変えることです。お客様の行動には、スマホで商品を見てお店で買うとか、お店で見た商品をネットで買うとか、いろんなパターンがあります。そうやって自由にデジタルとリアルをお客様が行き来するようになったので、「どこで買ったか」でスタッフの評価を決めるのは難しい。だから、ECで売れても、その在庫を持っている店舗も評価されるし、ECで予約して店舗で購入した場合でも、ECの人も評価されるように変えました。

それから予算ですね。年間の予算のうち、店舗だけでは達成できない部分を作るようにしています。そうすることで自然と協力して頑張るようになる。一緒に頑張った結果、どちらの評価も上がるという仕組みを作らないと対立構造ができてしまうのです。

■あえてわかりやすいフレーズを掲げる

――そういった連携を推進していく過程で、感情的な反発はなかったのですか? 「うちのほうが売り上げに貢献しているはずだ!」とか。

もちろん、それぞれ感情はあります。だから、いかに意思統一していくかということが大切なんです。「流行り言葉で商売をするな」とはよく言いますけど、我々はある時期から意識的に、プロジェクトも立ち上げ、「コメ兵はオムニチャネル化を推進します」と社内外に向けて言うようにしたんですよ。

先ほども言ったように、実態としては、オムニチャネル化をしようと思って始めたしたわけではありません。お客様のニーズに追いつくために、結果としてオムニチャネル化されたというのが本当のところです。でも、あえて“オムニチャネル”という象徴的なキーワードを示すことで、スタッフも進むべき方向がわかるわけですよ。しかも、その方針に沿って頑張ったらちゃんと評価として返ってくるので、「この方向で間違ってないんだ」という納得感のあるストーリーになる。

――感情的な反発を乗り越えて社内を一体化するために、みんなが共通して目指すべきゴールを指し示したということですね。そういうツールの活用だけじゃない、デジタルマーケティングをいかに社内に実装していくかというキモの部分までコメ兵が実践できているのは、なぜなのでしょう?

でも、BtoC企業ってみんなそうだと思います。お客様が先に進んでいるという状況があって、「こんなこともできないの?」と言われたら単純に悔しいじゃないですか。だから、やるやらないは問題じゃなくて、いかにやるかってことが問題になる。そのために頭を悩ませてきた結果だと思いますよ。

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