自動運転に欠かせないデジタル地図「ダイナミックマップ」。自動運転実現のキーテクノロジーが可能にする未来の社会とは

ホンダから世界で初めて自動運転レベル3搭載車「レジェンド」が発売されるなど、少しずつ実社会への普及の兆しが見えつつある自動運転技術。実は、自動運転に欠かせないのが、私たちが常々カーナビやスマートフォン上で見ている地図ではなく、「高精度3次元地図データ(HDマップ)」に、渋滞や事故による通行規制などの位置情報を組み合わせたデジタルマップである「ダイナミックマップ」です。この、ダイナミックマップの基盤である「高精度3次元地図データ(HDマップ)」を作成・提供しているのが、ダイナミックマップ基盤株式会社。2016年にオールジャパンの協調体制で設立されたこの会社では、現時点ですでに上下線合わせて3万km以上の高速道路・自動車専用道路データをカバーし、3年後の2024年には一般道路を含めて約13万kmのカバーを目標としています。
「Remodeling of the Earth」をスローガン(創業当時)に掲げる同社は、3次元空間の情報すべてにXYZの座標を付与し、もう一つの地球をつくるという壮大な目的があります。自動運転以外にも応用できる「高精度3次元地図データ(HDマップ)」とはどのようなものなのか?ダイナミックマップ基盤株式会社の取締役副社長、吉村 修一氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

-ダイナミックマップとは、自動運転で車が読み込む地図。ダイナミックマップ基盤は、その基礎情報となる「高精度3次元地図データ(HDマップ)」を手がける企業。

-高齢化や労働力不足の進む日本において、自動運転の実現は急を要する課題。

-2023年から2024年にかけて自動運転へのニーズが高まるタイミングで、ダイナミックマップ基盤は上下線合わせて約13万kmの道路データをカバーする予定。

-「高精度3次元地図データ(HDマップ)」は自動運転以外にも、電動車椅子やドローンの制御、地下埋設物の管理などさまざまな用途に役立つ。

手がけるのは、自動運転には欠かせない地図の「基盤」

―2016年に設立された背景やミッションを教えてください。

2013年頃から日本でも自動運転を普及させようという風潮になり、自動車メーカーが協調する流れが出てきました。協調すべき領域として人と車をつなぐヒューマンマシンインターフェイスやセキュリティ等と並んで、高精度な3次元地図が挙がりました。

その後、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)内にある自動運転走行ワーキンググループの中で協調して進めていくことが決まり、その中で弊社は2016年6月に「ダイナミックマップ基盤企画」として設立されました。翌年には事業会社化し、社名を現在の「ダイナミックマップ基盤」に変更しました。

―そもそもダイナミックマップとはどのような特徴を備えているのでしょうか?

ダイナミックマップは四つの階層に分かれています。一番上の階層が動的な情報。秒単位で変わるような、たとえば車両のまわりの歩行者や対向車の情報です。次の階層が準動的な情報です。分単位で変わるような事故や渋滞の情報です。三番目の階層が準静的な情報。時間単位で変わるような交通規制や道路工事の情報ですね。広域の気象情報もここに含まれます。一番下の階層が月~年単位でしか変わらない情報。具体的には車線やペインティングなどの路面情報や、信号機や規制標識など3次元の構造物の情報です。これらの情報はすぐに変わるものではないので、自動車メーカーや地図会社も必要となる情報です。この四番目の階層が我々の現時点における主たる事業領域となります。

―「ダイナミックマップ基盤」という社名のとおり、ダイナミックマップの基盤となる情報を手がけているということですね。

そうです。この一番下の階層の情報を「高精度3次元地図データ(HDマップ)」と呼んでいて、車線や路肩縁などの実在する情報と、車線中心線など仮想の情報を盛り込んでいます。これに先ほどの上位階層にある動的な情報を乗せていくとダイナミックマップができあがるという仕組みです。3次元地図データの情報はXYZ、つまり緯度・経度・高さの情報を持っているので、工事が始まった場合は、ここからここまでが工事中ですという具合にcm単位で範囲が分かります。

高齢ドライバーの事故や、長距離ドライバーの過重労働問題を解決するテクノロジー

―自動運転を取り巻く環境においては、北米の方が進んでいるイメージがあります。

自動運転については、グーグルの自動運転部門のウェイモやGM Cruiseが進んでおり、サンフランシスコ・ベイエリアやアリゾナ州・フェニックスなど規制を緩めたところでテストをしています。膨大なトライ&エラーを行っているので、やはりそこはアメリカが進んでいるのかなと感じます。ウェイモの他にも世界的に有名なスタートアップ多いですし、アメリカは強いですね。

ただ、日本においても先日、ホンダが世界初のレベル3の自動運転車を発売していますし、トヨタ、日産、ホンダ等からHDマップを搭載した最新鋭の量産車が世界に先駆けて投入されていることは凄いことだと思います。

―少子高齢化の進む日本では諸外国よりも、自動運転について差し迫ったニーズがあると思いますが、実際はどうなのでしょうか?

そうですね。確かに高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故や、高速道路の逆走も増えてきています。それらの防止という点でも我々のデータは役に立ちます。逆走に対してはデジタルデータ上で逆走不可の意味付けをして、車が進入できないようにすることが可能です。あとは人口減少による働き手不足の解消にも役立ちます。長距離ドライバーの過重労働が深刻化していますが、自動運転が実現すれば大きく解消されるでしょう。

―将来的に自動運転が実現すれば、属人的なドライビングスキルの差はなくなるわけですよね。そうなると、誰が運転しても定刻に目的地に着くという、タクシーと電車のいいとこ取りみたいな形になるのでしょうか?

オンデマンドな電車に乗るような感覚でしょうか。電車は決められた路線を走るだけですが、自動運転車は人々の行動を予測してこの時間この場所に配車すればいいだろうと先回りしたり、利用者がオーダーすると数分でピックアップしてくれたりといったように、今よりもずっとオンデマンド性が上がるでしょうね。「この利用者は映画を見終わったから、もうすぐタクシーに乗るだろうな」みたいな予測が、それこそAmazonの商品レコメンドのようなカジュアルさでできるようになるかもしれません。

―これまで前例のない「高精度3次元地図データ(HDマップ)」の作成において、実際の製作はどのように進めていったのでしょうか?

ダイナミックマップ基盤は、元々地図製作のノウハウを持っている複数の国内メーカーとともにオールジャパンで立ち上げた企業です。「ゼンリン」、「インクリメント・ピー」、「トヨタマップマスター」の3社はデジタル地図を、「パスコ」、「アイサンテクノロジー」は測量を専門とする企業です。そこに「みちびき」という準天頂衛星システムやHDマップを生成するための測量機器をつくった「三菱電機」の衛星測位の技術も投入して、国内トップレベルの技術を駆使してつくり上げています。

―ダイナミックマップについて基本的な質問ですが、これは人間に対しても視覚的に分かりやすく表示されるものなのですか?

そこは議論の余地があります。基本的には機械が読む地図であり、人の目には触れないものですが、もしかしたら将来「自分の目で見たい」といったニーズがあれば、エンタメ性を高めるために表示することもなくはないでしょうね。高級車のオプションとしてはあり得るかもしれません。

今後3年で、日本の自動運転技術は大きなフェーズを迎える

―現在、高速道路や自動車専用道路のカバーはほぼ終わり、今後は一般道路に広げていく段階ということでしょうか?

そうですね。日本の高速道路、自動車専用道路のカバーはすべて終わっていて、すでに市販の車両に搭載されています。2023年には一般道路を加えて上下線合わせて約8万km、2024年には約13万kmをカバーし、国道や各地の主要な道路まで対応する見込みです。

ただ、大きな道から中に入った街中の細い道路などはカバーされていません。細い路地になると歩行者や自転車が多くて、場合によってはすぐ側の家から人が出てくるなんてこともあります。そうなると、かなり高度な自動運転技術が必要なので、まずは高速道路や自動車専用道路と主要な一般道路を優先的にカバーしていきます。

―2023年から2024年の1年間で急激な増加を見込んでいますが、その理由を教えてください。

今から2~3年後が、自動運転の技術が一気に進歩するタイミングだと睨んでいます。自動運転の実現には我々のデータは必要不可欠だと思っているので、先行して多くの方の声を聞きながら進めています。

自動運転を体験すると感じることですが、高速道路の中ですごく快適なわけですよ。料金所の本線に入ってから、ずっと手を離したまま走行でき、追い越しもできて、目的地の近くまで行くと勝手に降りることができるのです。これは非常に楽ですし、すごい体験です。一方で高速道路を降りた瞬間に手動での運転になってしまうのは、やっぱりユーザーとしては不便なんですよ。高速も一般道も同じような広さで走っているのに、なぜ高速道路だけしか自動運転ができないのだろうと。そういったエンドユーザーのニーズと、自動車メーカーの想いを考慮して、2023年から2024年に一般道路を対象にした自動運転が普及していくと予想しています。そのスピード感に応えるように、我々も取り組みを進めていくわけです。

自動ロボやドローンの制御に、インフラ整備……、広がる可能性

―「高精度3次元地図データ(HDマップ)」は自動運転以外にも、たとえば車を運転しない人にとっても、なにかメリットはありますか?

我々が提供する「高精度3次元地図データ(HDマップ)」にとって自動運転は一つの用途であり、それ以外にも応用ができます。たとえば、私はオキュラスなどのVR用のヘッドセットでゲームをプレイすることがありますが、これから世の中はそちらにシフトしていく。VRからARになって、いずれは『ドラゴンボール』の「スカウター」のように、街ですれ違う人のステータスや、デパートの前を通るとレコメンド商品などがすべて分かるようになる。

そう考えた場合、MicrosoftのHoloLensやiPhoneでARを使うと分かるのですが、位置情報が正しくないから現実世界と位置ズレが生じるという問題があるんですよ。GPSの即位結果と数m単位でズレるので、自分で位置を調整しないといけない。そこで、我々がこの地球を正しくモデリングすれば、正しい座標を提供することができると考えています。

―御社のスローガン「Remodeling of the Earth」(創業当時)とは、そのことを意味しているのでしょうか?

そうです。もう一つの地球をモデリングするわけです。そのデータを活かすための最初の市場として自動運転があって、次は自動の車椅子だったり、自律走行ロボだったり、物流倉庫で無人で動く「AGV」などもマーケットになるでしょう。あとはドローンですね。自動でドローンが飛ぶためには、3次元の情報で航路設計が必要ですが、「高精度3次元地図データ(HDマップ)」を使用することで、いずれは無数のドローンが地球上を飛び回るようになると思います。モビリティ以外では、水道管や電気ケーブルなど地下の埋設物の管理や先ほどのARなどにも活用できるでしょう。

―基盤を押さえればあらゆる方面に応用できるわけですね。

これからの時代は、3次元空間の基盤となる位置情報データが必ず求められるので、それを提供できるプラットフォーマーになりたいと考えています。経済学的に見ると、自動運転やインフラ整備に必要となる位置情報データは社会のみんなで使うものなので、公共財に近いともいえるわけです。我々は協調領域から立ち上がった企業なので、公共性の高い役割を担うことも意識して、正確なデータを届けていきたいですね。
吉村 修一
ダイナミックマップ基盤株式会社 取締役副社長

三井物産株式会社にてプロジェクト開発・インフラ投資・投資先管理等に従事した後、官民ファンドである株式会社産業革新機構に参画。大企業とスタートアップに跨ったオープンイノベーション投資・カーブアウト投資・ベンチャー投資を多数実行し、投資先企業の取締役や政府委員等を歴任。現在は、ダイナミックマップ基盤株式会社 取締役副社長

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