中国最前線

FlyZooHotel体験記 〜テクノロジー企業を標榜するアリババの挑戦〜

アリババグループが運営する、最新テクノロジーを駆使したホテル「Fly Zoo Hotel」。膨大なデータを保持するアリババは、それを活用するため様々な領域で独自のテクノロジー開発を進めている。2018年末にオープンして以来、何かと話題のこのホテル。どんなテクノロジーと出会うことができるのか。実際に宿泊して感じたことをレポートする。

顔認証で手続きを簡略化

ホテルに入り、まず視界に飛び込んできたのは巨大スクリーンに映し出されたデジタルアートだった。近未来感があり、これから何が待っているのか期待が高まる。

ホテルの入り口に、通常のホテルのようなフロントはない。あるのは整然と並んだ自動チェックイン機だ。アリペイアプリを使ってチェックインできる仕組みになっていて、スクリーンを覗き込んで顔認証も済ませる。
入り口に設置された自動チェックイン機

入り口に設置された自動チェックイン機

私たちはアリペイアプリを使えないため、ホテルスタッフが対応してくれた。困ったときは2階にスタッフがいるので安心である。チェックインは、利用者側からすると時間がかかって面倒な作業。ホテル側からしても、常に人員を割かねばならず効率的ではない。自動化されたことで双方にメリットがあると感じた。

さて、ホテル内はどうなっているのか。ひとまず自分の部屋に向かうためエレベーターに乗り込むと、カメラとスクリーンがあることに気がつく。ここで先ほどの顔認証が役に立つのだ。エレベーターはただ乗っただけではどの階にも行けないようになっている。スクリーンで顔を認証してもらうことで、ようやく自分の宿泊階のボタンを押せるようになるのだ。私の顔と、何階のどの部屋に宿泊予定かという情報は常に紐づけられ、ホテル内の様々な箇所で活用されることになる。

部屋の前にたどり着くと、ふと手元に重要なものがないことに気がつく。そう、ルームキーをもらっていない。どうしよう?そう思ったとき、部屋のドアにもカメラがあることに気づいた。カメラの前に立つと、カメラの周囲が光って反応、鍵が空いた音がした。ここも顔認証で、ルームキーは必要ないのだ。これなら、ホテルでありがちなルームキーを室内に忘れて部屋から締め出される…といった事象も起こらないし、複数人で宿泊した際、誰がルームキーを持つかで揉めることもない。ホテル内のどこへ行くにも、自分の身一つあれば認証してもらえるのはかなり楽だと感じた。

室内を掌握するアリババの「魔人」

部屋に足を踏み入れた率直な印象は、「きれい!!!」。白で統一された室内は広い窓から差し込む光で明るく、清潔感がある。嬉しくて一旦ベッドに飛び込みたくなるが、この部屋にも仕掛けがあるという。今回のツアーを運営している株式会社デジタルシフトアカデミー代表取締役社長の吉田さん(株式会社オプトホールディング グループ執行役員)と株式会社オプトホールディングの中国出身の李さんに何ができるのか聞いてみた。

「テレビやカーテン、照明などの室内設備は全てIoT接続されていて、アリババが提供するAIスピーカーで管理されています」と李さん。アリババのスマートスピーカーがこれ。
その名も「Tmall Genie(天猫精灵)」だ。名前を読んでから中国語で指示をすると、カーテンの開閉、テレビや照明のON/OFFなどを自動でやってくれる。「ロマンチックな雰囲気にして」などと曖昧なお願いをしても、良い感じに照明を落としたり音楽をかけたりしてくれる繊細さを持ち合わせているという。アラジンと魔法のランプの魔人「Genie」を連想した。アリババの魔人、すごい。ちなみに私も、中国語でカーテンを開閉できるようになった。

ロボットの活躍

さらに部屋では、アプリを使ってルームサービスを頼むことができる。李さんがフルーツの盛り合わせを注文すると、アプリに受け取り番号が通知された。到着までしばらく待つと、やがて部屋のインターフォンが鳴った。ドアを開ける李さん。
するとそこには、人間ではなくロボットが立っていた。このホテルではロボットがルームサービスを担当しているのだ。
ロボットに受け取り番号を入力すると、前面の蓋が開き、中から注文したフルーツの盛り合わせが。受け取って画面を操作すると、ロボットは「役目は終えた」とばかりに帰って行った。このまま一人でエレベーターに乗り、バックヤードまで帰れるという。
仕事を終えて帰っていくロボット。背後には「仕事中。邪魔しないでね」の文字が。

仕事を終えて帰っていくロボット。背後には「仕事中。邪魔しないでね」の文字が。

文字通り機械的な対応ではあるものの、サービスには問題なかった。ルームサービスの対応をロボットがするだけで、大幅な人件費の削減になるだろう。加えて、一度チェックインした後、スタッフとはいえ人に会うのが面倒な場合もあるので、対応を気にしなくていいロボットが来てくれるのはありがたいかもしれないと感じた。

また、インパクトが大きかったのが、ホテル内のバー。このバーの名物が「ロボットバーテンダー」である。夜に見学に行ってみると、思いの外ロボット感が強かった。
人型の小さいロボットを想像していたら、かなり威圧感がある

人型の小さいロボットを想像していたら、かなり威圧感がある

結局、横のお姉さんがお手伝いしているのであまり効率はよくないかもしれない。しかし、カクテルの作り方がダイナミックで見応えがある。その一方で、コップを割ったり液体をこぼしたりしないよう、要所ではまるで人間のような繊細な動きもできる。多くの人が1杯頼み、ロボットバーテンダーの仕事ぶりを撮影していた。

テクノロジーはあくまで顧客体験向上の手段

AIやIoTの活用、顔認証システムにロボットまでーー。FlyZoo Hotelは、アリババが開発を進めるテクノロジーをふんだんに使った、まさに最先端のホテルだった。正直、テクノロジーのホテルと聞いて、あまりサービスに対する期待はしていなかった。しかし泊まってみての率直な感想は、「快適だった」である。

自動チェックインや顔認証システムによって待ち時間が少なくなったり、ルームキーなど持ち運ばなければならないものが減ったりすることで、身一つでスマートにサービスを受けられた。加えて、様々な場面で登場するロボットは、業務を効率化し機能的であるとともにエンターテイメント性が高く、宿泊体験を楽しいものにしてくれる。

このホテルは、テクノロジーを使用することが目的なのではなく、あくまで「顧客体験を向上させるためにテクノロジーを使っているだけ」なのだと気がついた。どんな最新のテクノロジーも、それ自体がすごい訳ではない。課題を解決できるからこそ意味があるのだし、普及していくのだろう。データと同じように、テクノロジーに対する姿勢にも「あらゆるビジネスを広げる力になる」というアリババの思想が反映されていると感じた。

流行の先端だから、競合他社が使っているからという理由だけで、テクノロジーありきで物事を考えてもうまくはいかない。全ては、現状をより良いものにするために。テクノロジーの活用でも、見習うべきところが多いと感じた宿泊体験だった。

***
次回以降は、アリババを離れ、中国の新興企業の今をレポートする。

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