デジタルシフト時代の小売りビジネス最前線 #01
2019/12/17
国内外の小売業界におけるトレンド、テクノロジー活用事例を、マーケターの伴大二郎氏が解説する。
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伴 大二郎 -Daijiro Ban-
株式会社オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー 兼 OMOコンサルティング部 部長
小売業界においてCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。
■小売業を中心に進むECと店舗のボーダレス化
しかし、その一方で日本のEC化率は未だ10%以下であるというデータがあります。しかも本質的には残りの90%の購買行動にもデジタルの影響は拡大しており、年々その勢いは増しているのです。特に日本は、ECとリアル店舗を分けて考えがちですが、その概念を無くさなければこの変革の時代に顧客の支持を得る事は難しいでしょう。
では、どうしたら良いのか、その答えを鮮明に表しているのがニューリテールです。
誤解のないように説明しますが、ニューリテールとは最新のテクノロジーを使った、Amazon GO(アマゾン ゴー)や盒馬鮮生(フーマー)などの店舗の事ではありません。『事例でわかる新・小売革命』の中で著者である劉潤(リュウ・ルン)氏は、ニューリテールとは『「物」と「人」それをつなぐ「場」の3つで効果的に商品が移動する方法を最適化するメソッドであり進化し続ける物』と説いています。
■「物」×「人」をつなぐ「場」の3つの効果
19世紀のニューリテールは、百貨店のSears(シアーズ)など、鉄道の誕生に対応しカタログ通信販売を開始し、自由返品や代金引換のサービスを提供した企業が勝ち組であった。
日本でも主要都市に百貨店が続々とできたとき、そこにある物は良い物と認識され、売れていきました。
2 0世紀のニューリテールには、自動車の普及に対応し、家賃の安い郊外で「エブリデイ ・ロープライス 」の大型スーパーマーケットでワンストップマーケティングを提供した Walmart(ウォルマ ート)があげられるでしょう。その時代のテクノロジーの変化に対応したビジネスモデルを構築した企業が市場を牽引していくことがわかります。
当然、21世紀のニューリテールは、インターネット、モバイル、ビッグデータ 、 SNS、 AIなどのテクノロジーを上手に活用し、ビジネスモデルを変革する企業が勝ち残っていくのです。
■もはや「人の集まる場所=利益の上がる場所」ではない
特に、“ついで買い”でコモディティ品をいかに買ってもらうかなど、POSデータや会員の購買データを活用した売り方の改善には多くの時間を費やしてきました。2011年からは株式会社オプトでデジタルを駆使した広告やCRMのコンサルティング・サポートを行なっていますが、今まさに21世紀のニューリテール変革における正念場を迎えていると感じています。
痛感するのは、もはや人の集まる場所=利益の上がる場所ではない、ということです。
インターネットやモバイルの普及以前は、場所がパワーを持っていました。良い場所には人が集まり、人が集まれば物が売れる。シンプルであるが故に強いルールだったのです。
まず鉄道の発展により、人の集まる場を持ったのが百貨店で、百貨店の「場」の力を借りて多くのブランドが成り立ちました。次に車の普及によって人の集まる場所を作る事が出来るようになると、郊外型ショッピングセンターやモールとその「場」の力を借りて成り立ってきたブランドが多く生まれましたが、現在はいずれも厳しい状況に陥っています。これは、ECにシェアを奪われているからかというと、そうではないのです。なぜなら日本のEC化率は、いまだ10パーセント以下だからです。
■ルールや道具が変わればやり方も変わる、その当たり前を瞬時に理解する
私の前職はスポーツ用品の小売(ヴィクトリア/ゼビオ)であり、スポーツの「ルール」変更や「技術革命」による変化はよく見てきました。私が学生で競技スキーに明け暮れていた時、「カービングスキー」という技術革命が起きたのです。その技術革新により、この革命により少しのミスも許されないよりシビアな競技へと変化したことで、それまで善戦していた私ですが、ライバルとの差がどんどん開いていった苦い思い出があります。
プロの世界でも、道具の進化によってプレイヤーがやり方を変えなければ勝てなくなることが起きえます。その道具、ルールの中でしっかり勝つ技術を身につけた者が勝者となるスポーツと同じように、この変革を理解し戦える技術を身につけるべきでしょう。そのヒントは変革を担うGAFAやBATH、「情報流」や「金流」をうまく活用しているD2Cやサブスク企業などから学び取り入れる事が出来るでしょう。
ここからは、直近1年で実際に私が見てきた「場」をうまく作り上げている海外企業を例に、各企業が「情報流」「金流」「物流」をどの様に活用をしているのか整理していきます。
■OMOの担い手、Amazonとアリババの効果的な「場」づくり
Amazon Booksの一番の凄さは、全て面置きのレイアウトが出来る事です。SKU(商品数/ Stock Keeping Unit)を絞って本を面置きし、表紙を見やすくする。どこの書店でも一部コーナーなどでやっている事ですが、これを全面でやる事は、目的購買のテール商品を捨てる事です。つまり「本屋で探し物がみつからない」確率が上がってしまいます。これを許容できるのは、探し物はオンラインに託し、オフラインでは偶然の出会いやインスピレーションを重視しているからに他なりません。当然Amazonならではの仕掛けがそこにはあり、得意とするレコメンドはもちろん、3日以内に読み終わる本やKindleユーザーにマークラインが最も引かれた本など、買いたくなる「情報」が溢れる「場」となっています。
さらに流石だと思わせるのが、キッズコーナーの充実です。絵本などは、親子で一緒に選んだり確かめたりしてから買いたい物。オフラインの強みを活かした上で、オンラインで獲得しにくいプライム会員を増やす仕掛けになっているのです。実際にアメリカの店舗ではキッズコーナーに多くの親子がいましたし、多くの子供がキッズ用のKindle端末を持っていました。
現地の知人に聞くと、一度店内で食べて美味しい事を知ると、それ以降はECでオーダーし、あまり店舗には行かないと言うのです。スーパーであり、ECの倉庫であり、レストランであり、フードデリバリーでもあるこの場所は、EC化率60%。見事にOMO化している小売店舗です。
次回は、リアル進出で躍進するD2C企業の「場」の活用について解説していきます。