自動運転技術は「車」だけではない! 物流・農業・建設・警備・清掃など、各業界で活用される「自動運転」の今を追う

人の移動に革命を巻き起こす自動運転技術。自家用車をはじめ、タクシー、バスなどさまざまなモビリティに実装され、無人による自由な移動の実現に期待が寄せられている。

一方、自動運転技術は人の移動に限らず、モノの移動を中心にさまざまな用途への活用が検討されている。社会に大きなイノベーションをもたらす自動運転技術を車のみに活用するのは宝の持ち腐れであるためだ。

そこで今回は、自動運転の転用・応用形に関するユースケースについて、定番の取り組みをはじめ、番外編まで紹介していく。

■物流ロボット(宅配ロボット)

自動運転技術の応用形として、ビジネスの観点から期待が高いのが物流分野だ。EC需要の高まりとともに宅配需要が増し、ドライバー不足が深刻化しているが、こうした課題を解決するとともに、低料金化を実現するテクノロジーとして大きな期待が寄せられている。

自動運転技術を活用した宅配ロボットには、車に近いサイズのタイプや小型サイズのロボットなどがあり、車に近いタイプのロボットを開発している企業の代表格として、米スタートアップのNuroが挙げられる。乗用車の約半分のボディサイズで、最高時速40キロで走行可能な「R2」の実用実証を進めており、ウォルマートやドミノピザなどとの配送実証をはじめ、コロナ禍における医薬品配送などで脚光を浴びた。

小型サイズのロボットにおいては、米Starship Technologiesが先行している印象だ。2018年4月に英ミルトン・キーンズの歩道などで実証サービスを開始して以来、配送回数は累計10万回を超え、2020年3月には6つの新しい都市でサービスをスタートさせたことを発表している。

そのほか、EC系企業も開発分野に積極参入しており、米Amazonや中国の京東集団なども実用化の域に達し、自社サービスに活かすため実証を重ねている。中国Neolixなど、スタートアップの参入も相次いでいる。

国内では、いち早く開発に着手していたZMPが大きく先行している。宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」の実用化に向け、コンビニ商品配達など各所で実証実験を行っているほか、商用プログラムも開始している。

このほかにも、Hakobotなどのベンチャーも開発を進めている。国としても配送ロボットの公道実証環境を整えるなど実用化に向けて本腰を入れており、今後新規参入が相次ぐ可能性が高そうだ。

商業施設やオフィスビル、レストランなどでも、注文があった商品や食事を運ぶ用途で自律走行ロボットを活用する取り組みが盛んに行われつつある。例えば国内においては2019年1月、大手ディベロッパーの森トラストが東京都内のオフィスビルで「Relay(リレイ)」という自律走行搬送ロボットを使った実証実験を実施している状況だ。

物流ロボット(搬送ロボット)

物流分野では、宅配ロボットよりも先に倉庫内などで活躍する自動運転搬送ロボットが実用化されている。モノを運ぶという意味では宅配ロボットと同じだが、一定敷地内・ルートに限定した走行が可能であるため、実現のハードルが比較的低い。

古くはラインマーカー方式による自動運転が主流だったが、近年では事前マッピングのもと、センサーを駆使して走行するタイプの開発が進んでいる。この開発分野では、ZMPやパナソニック、Doogなどさまざまな企業が参入している。

また、物流の一拠点となる倉庫などにおいて、荷物の搬送や仕分け、積載などすべてを自動化したスマートファクトリーの開発・実装も進んでおり、倉庫業を包括する一体的な自動運転システムとしての活用に期待が持たれている。

東京大学発ベンチャーのTRUST SMITHは、スマートファクトリーの実現に向け新会社を設立し、搬送ロボットや搬送トラックなど多角的な開発を進めている。

ロボット農機

畑や水田で活躍する農業機械も、自動運転の導入による無人化に高い期待が寄せられている分野だ。私有地内で、人の侵入も限られる一定範囲がODD(運行設計領域)となるため自動運転技術の実用化のハードルが低く、耕うんや代かき、田植えなど農機本来の業務を無人化する技術との両立がカギを握っている。

自動運転同様、ロボット農機も技術水準をもとに農林水産省がレベル分けしている。各レベルの技術水準は以下の通りだ。

・レベル0:従来の手動操作による農機
・レベル1:オペレーター搭乗のもと直進走行など操作の一部を自動化した農機
・レベル2:オペレーターの近接監視のもと無人で自動走行する農機
・レベル3:遠隔監視のもと無人で自動走行する農機

現在の各社の開発レベルは、概ねレベル2だ。

国内では、最大手のクボタを筆頭にヤンマー、井関、海外でも世界最大手のディア・アンド・カンパニーをはじめ各社がしのぎを削っており、GPSに加え5Gを活用することでより精度の高い位置計測技術の確立を目指し各地で実証が盛んに進められている。

特定用途では、茶の無人摘採機も実用化が進んでいるようだ。松元機工らが従来の乗用型摘採機を改良し、超音波センサーや方位センサー、シーケンサー制御によって茶樹と空間部分を検知しながら自動走行して作業を行うロボットを開発している。

農林水産省も同省が主導する「スマート農業実証プロジェクト」などを通じてこうした開発を支援しており、今後もさまざまな用途向けのロボット農機が誕生する可能性が高そうだ。

ロボット建機

建設現場で活躍する建設機械・重機の自動化も進んでいる。人手不足の解消はもちろん、人間が立ち入りにくい場所での作業も安全にこなすことが可能になる。

鉱山・採掘現場を中心に無人走行可能なダンプトラックの実用化が進むほか、クローラダンプ、ロードローラーなど、幅広い用途への導入に向けた開発が盛んだ。

大手では、大林組が2020年10月、大型ダンプトラックによる自動運転の実証を日野と実際のダム建設現場で開始している。大成建設は自動運転クローラダンプの実用化に目途を付けたほか、可搬型5G設備を活用し、遠隔操作と自動制御が可能な建設機械システム「T-iROBOシリーズ」の連携に成功したことなどを発表している。

一方、無人ダンプトラック運行システム「Autonomous Haulage System(AHS)」を実用化しているコマツは2019年、自動運転ダンプシステムの専門組織を米国で新設するなど、技術の高度化を推し進めている。

警備ロボット

自動運転化された警備ロボットの開発も熱を帯びている。国内では施設内で稼働するタイプの開発・実用化が進んでおり、警備業大手のセコムや綜合警備保障(ALSOK)、セントラル警備保障などをはじめ、ZMPやスタートアップのSEQSENSE(シークセンス)などが製品化している。

施設内を巡回して異常を発見するのが主な業務で、不審者や不審物の発見、異常音、火災やガスの検知、通報システムなど、さまざまな機能を備えたモデルが相次いで発表されている。

不審者に対しては、アナウンスや音で威嚇し、通報するシステムが主流のようだが、海外では電気棒やテーザー銃(電極を飛ばすスタンガン)を搭載したモデルもあるようだ。

将来的には、幼稚園や小学校付近など外を定期巡回・パトロールし、地域の安全向上に資するモデルが登場するかもしれない。

清掃ロボット

警備ロボット同様、清掃ロボットも導入が進んでいる。特に、コロナ禍を機に導入する施設が増加しており、自治体などからの注目も高まっているようだ。

コロナ禍真っただ中の2020年4月、ソフトバンクロボティクスはAI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」と「施設清潔度診断サービス」を無償提供することを発表した。清掃ロボットは高い関心を集めているようで、同年6月には世界販売台数が累計1万台を突破し、世界シェア1位を記録したことも発表している。

施設内の清掃を目的とするモデルが大半で、あらかじめマッピングしたエリア内を巡回して業務をこなすシステムが多い。将来、清掃機能や警備機能、インフォメーション機能などを合わせ持った自動運転モデルが開発され、商業施設などで活躍する日が訪れるかもしれない。

草刈り機

夏から秋ごろを中心に伸び盛りを迎える雑草。年に数回草刈り作業に追われることも当たり前で、かなりの労働力が必要となる。国内ではハンディなタイプの草刈り機が主流で、広大な敷地を刈り取る場合は乗用タイプのものもあるが、こうした草刈り機も自動運転化が進んでいるようだ。

産業機器メーカーの和同産業は、2018年にロボット草刈機「MR-300」を発表した。85×520×36センチの3輪モデルで、最大3000平方メートルの範囲の草を自動で刈り取ることができるようだ。

ホンダも2019年、ロボット芝刈機「Miimo(ミーモ)」の実証実験を開始した。東京都公園協会の協力のもと、大型公園での利用・適用性検証と電源設備の無い河川敷における使用可能性の検証を行っている。

画像認識技術の開発を手掛けるセンスタイムジャパンもこの分野に進出している。定期的な草刈りを行う必要がある用途に最適化した汎用画像認識技術を開発し、草刈り機メーカーや芝生業界などへ提供していく構えだ。

自宅敷地内はもちろん、農業用地や公園、河川敷、道路脇といった公共空間に至るまで、雑草駆除の需要は確実に存在しているのだ。将来、自動運転草刈り機・芝生機により、隣の芝がより青く見える日が訪れるかもしれない。

災害救助

無人走行を実現する自動運転技術は、災害時の活躍にも大きな期待が寄せられている。大地震などが発生した際、迅速に被災地や被災者の状況を把握する必要があるが、道路の寸断といった物理的理由やニ次被害防止の観点からなかなか立ち入ることができない場面も多い。

こうした際に、がれきの上などでも走行可能な無人調査機やドローンを活用することで、被災地の状況や要救助者の捜索などを迅速に行うことが可能になる。

ラジコンのように遠隔操作が可能であれば、厳密な意味で自動運転が必要というわけではないが、カメラや赤外線センサーなど各種センサー技術が役立つことは間違いない。災害後の物資の搬送をはじめ、自動運転に特殊な機能を備えたモビリティが必要とされる場面を想定し、新たな研究開発に期待したい。

スポーツ分野

スポーツ・競技の中で自動運転技術が活用される場面も、今後増加していく可能性がある。

ゴルフ関連では、改造しやすいシンプルな構造のゴルフカートが低速自動運転車のモデルとして活用されているが、英国のゴルフ関連メーカーは「ロボットキャディ」を実用化したようだ。Bluetoothによってプレーヤーを追従する仕組みで、パーソナルな利用などに最適かもしれない。また、ゴルフ練習場では、自動でゴルフボールを回収するロボットも実用化されている。

国内関連では、日産が2018年、サッカーUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦において、自動でサッカーのピッチに白線を引くロボット「ピッチアール」を披露している。ライン引きの自動運転化はハードルが低く、需要があればすぐにでも実用化できそうだ。

将来、サッカーの副審(線審)も自動運転化される可能性もある。ボールの動きに合わせてタッチライン際を走行し、ボールがラインを割ったかどうかをセンサーで厳密に判定するのだ。

一方、トヨタも東京2020オリンピック・パラリンピックに向け、フィールド競技サポートロボット(FSR)を発表している。陸上投てき競技などにおいて自動運転機能を有するロボットの活用を見込んでおり、運営スタッフの追従走行や障害物回避走行を実施しながら、槍やハンマーといった競技中の投てき物の回収・運搬を行うことを想定している。

多種多様なスポーツにおいて、自動運転技術を応用可能な場面はいろいろありそうだ。

不動産を動産化

自動運転技術の応用というよりも、自動運転車の応用パターンとなるが、自動運転技術の活用によって不動産である建物に付随するサービスを動産化することも可能になる。

海外では、米Robomartやスウェーデン系のMobymartが自動運転により自律走行が可能な無人コンビニを開発しているほか、自動運転車両を活用した小売りサービスの実証なども盛んに行われている。

また、移動可能なホテルや会議室のコンセプトモデルなども発表されており、従来、特定の建物で行われていたビジネスやサービスが、自動運転によって動産化する可能性があるのだ。

アイデア次第で新たなビジネス展開が見込めるため、自動運転技術の確立後には、あっと驚くような新サービスが続々と誕生するかもしれない。

番外編~椅子や植栽も自動運転化?

WHILLのように車いすを自動運転化して人の移動に資する例はあるが、純粋に「椅子を自動運転化」した取り組みもある。

日産は2016年、同社の自動運転技術「ProPILOT(プロパイロット)」から着想・開発した「ProPILOT CHAIR(プロパイロット・チェア)」を発表した。飲食店入店前の行列用の椅子を自動で整列する技術で、順番待ちの人を乗せたまま次々と移動し、空いた椅子はまた最後部に戻るといった遊び心あふれる取り組みだ。

電通国際情報サービスのオープンイノベーションラボは、さらに驚きのアイデアを自動運転と結び付けた。同社は2020年2月に開催された植栽展示会において、ロボットアプリケーションを搭載した植栽プランターを展示した。

高精度の自己位置推定技術を用いた自律移動ロボットの公開実証実験として実施したもので、「動く植栽」が自動往来することで展示エリアとセミナーエリアの境界を緩やかに区切り、自然に来場者の動線を確保できるかを試みたという。

こうした発想は、大型イベントなどで応用・実用化できるかもしれない。入場待ちの長蛇の列ができるイベントは多いと思うが、この列を区切る際によく用いられているカラーコーン(パイロン)やコーンバーといったパーテーションを自動運転化するのだ。

列の長さに合わせて最適な位置に自動で配置する仕組みで、インフォメーションロボットや警備ロボットを合わせて配置することで、無人化を達成することができるかもしれない。

自動運転技術は未来のビジネスの宝庫

こうしたアイデアの実現には、費用対効果や需要の見込みなどを考慮する必要があるが、開発段階においてはビジネス性を度外視した自由な発想で新たなチャレンジを行うことも重要だ。

将来、自動運転技術が確立されれば、導入コストも次第に低下すると想定される。現時点でコストが見合わないアイデアも、将来ビジネスとして成り立つ可能性は十分考えられるだろう。

今後、自動運転技術の認知度や社会受容性が高まるにつれ、技術を応用した新サービスの展開に乗り出す企業も増加するものと思われる。移動革命を巻き起こす自動運転技術は未来のビジネスの宝庫でもある。発想力を武器に新たな応用形を見出し、いち早く世に送り出す取り組みにも注目していきたい。
文・監修/自動運転ラボ

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