NFTゲームが富の再配分に寄与する事例も。DEA創業者に聞く、「X to Earn」の可能性<後編>
2022/9/1
YouTubeに代表される動画投稿サイトなど、個人が発信することのできるツールの出現により、好きなことをして稼ぐための選択肢は増えています。そして現在、ゲームや徒歩、勉強さらには睡眠をするだけで稼ぐことのできる「X to Earn」というムーブメントが生まれつつあります。「ゲームで遊んで稼ぐ」なんてことが本当に可能なのか? 多くの人が抱える疑問について今回お答えいただくのは、Digital Entertainment Asset Pte.Ltd.(以下、DEA)のFounder & Co-CEOの山田 耕三氏。インタビュー後編では、ゲームと金融の融合で生まれたGameFiの歴史、そのGameFiが実際に解決したフィリピンの貧困問題、Web3時代のゲームと社会の関係などについてお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- 2021年の夏に爆発的ヒットとなった『Axie Infinity』により世界中のゲームメーカーが「Play to Earn」に注目。今後はNFTゲームの世界に国内大手メーカーの参入も予想される。
- Axie InfinityはベトナムのベンチャーであるSky Mavis社が開発したゲーム。NFTのモンスターを購入して操り、敵を倒すことで暗号資産が手に入る。これがフィリピンの貧困層の経済的自立に一役買っている。
- Axie Infinityをプレイできない貧困層に富裕層がお金を貸してプレイさせ、そこで稼いだ額の何割かを手数料として徴収するスカラーシップ制度により、世界中の富の再配分が進んでいる。
- Web3時代のゲームはメタバース化することで、国籍や人種、言語の壁を越えて社会的な意義や収入を得られる。すなわち、生きがいを実現する手段になっていくと山田氏は予想する。
国内大手企業の参入で、GameFi2.0の時代が到来する
まず、Web3のムーブメントについてシンプルに説明すると「自動化」の一言に集約されます。人がいなくても勝手に動く仕組み、それがWeb3です。そこから生まれたのが分散型金融の「DeFi(Decentralized Finance)」であり、「Uniswap(※1)」に代表される無人銀行です。その後、無味乾燥だったUniswapのサービスに彩りをつけようという動きが生まれ、亜流として誕生したのが「SushiSwap(スシスワップ)」です。これは、「SUSHIトークン」というキャッチーなトークンが手に入るということでブレイクしました。
単にお金を移動させる行為を、花を摘む行為に置き換えたり、単なる預金を畑に種を植える行為に置き換えたり、遊び心を持たせたサービスが流行るようになり、やがてゲームと金融が融合した「GameFi」に発展します。そこから生まれた大ヒットタイトルが『Axie Infinity(※2)』です。一時は月間の売上が400億円にも達するほど大きなインパクトを残し、トークンの時価総額は任天堂を脅かすといわれ、世界中のゲームメーカーを騒然とさせました。2021年の夏はすべてのゲーム会社がAxie Infinityについて学んでいた状態です。
Axie Infinity以降、無数の類似タイトルが生まれ、盛り上がっては消えていきました。そこで稼いだWeb3企業はおそらく現在、100億円、200億円という予算をかけたスーパーリッチなNFTゲームをつくっているでしょう。スクウェア・エニックスやバンダイナムコ、セガ、サイバーエージェントなど国内の大手企業もGameFiに参入すると予想されます。これまでのGameFi、いわばGameFi1.0は軸足がFinTechにありましたが、大手企業が参入するとなるとゲーム性が高まりGameFi2.0の時代になるでしょう。
※1 Uniswap:仲介者なしで暗号資産を取引できる分散型取引所。イーサリアムのブロックチェーン上に存在する。
※2 Axie Infinity:アクシーと呼ばれるモンスターを育成し、バトルや繁殖を楽しみながら暗号資産を稼げるNFTゲーム。
ゲームがフィリピンの貧困問題解決に寄与?
Axie Infinityはベトナムのベンチャー企業であるSky Mavis社が開発したゲームです。3体のモンスターを操作して敵をやっつけるとお金がもらえる仕組みのゲームですが、フィリピンで爆発的に流行りました。バトルに勝つと「Smooth Love Potion(SLP)」という暗号資産がもらえるのですが、これがフィリピンの貧困問題の解決に寄与しているのです。
去年の夏の話ですが、Axie Infinityをプレイするためには10万円でアクシーというモンスターを購入する必要がありました。平均月収が5万円以下といわれるフィリピン人にとって誰もが払える額ではありません。そこで生まれたのがスカラーシップ制度です。富裕層のゲームプレイヤーが貧しい人たちにアクシーを貸して、代わりにプレイしてもらうのです。去年の夏時点では1ヶ月で15万円ほど稼ぐプレイヤーが続出しました。半分が手数料として回収されても7.5万円。フィリピンの平均月収を上回ります。スカラーシップ制度には多くの希望者が殺到して、倍率は数十倍にもなったそうです。
高齢者など普段は絶対にゲームをやらないであろう層をもAxie Infinityは取り込み、ドキュメンタリー番組もつくられたほどです。ちなみに、富裕層のゲームプレイヤーはゲーム内で数千万、億単位の課金をします。Axie Infinityが月間400億円という驚異的な売上を達成できた裏にはこういった理由があります。
――まさに現代の地主と小作人ですね。
本当にそうですね。スカラーシップ制度が広まるにつれて、事業化の動きも出てきました。会社としてゲームギルド(※3)を起ち上げ、大量の貧しい人たちを雇い、スケール感を持ってまわしていく。今やゲームギルドと呼ばれる団体は世界中に約25,000件存在するといわれています。
※3 ゲームギルド:オンラインゲームにおいて、プレイヤーが集まったグループのこと。
暗号資産により世界中の富の再配分が促進
スタープレイヤーを生み出してeスポーツチームのように発展するギルドもあると思います。面白い戦略として、とあるギルドは徹底的にGameFiを分析してレポートまで発行しています。この場合のターゲットは投資家です。ゲームメーカーではなく自分たちに投資してくれれば、インデックスファンドのように最適化された投資ができるというアピールですね。ゲームギルドは生まれたばかりの業態なので、生存戦略も多岐にわたっています。
――ゲームギルドは国別に見るとどのような分布でしょうか?
東南アジアが多くて、GameFiの先進国は断トツでフィリピンです。Axie Infinityのプレイヤーも多く、全体のリテラシーが高いですね。日本と異なり、家族同士でお金儲けの話をすることにも抵抗がないという国民性の差もあるでしょう。世界最大にして最高のギルドといわれる「YGG(Yield Guild Games)」もフィリピンにあります。
――Axie InfinityをはじめとするNFTのゲームは、なぜ東南アジアで普及しているのでしょうか?
いろいろな分析がありますが、「Play to Earn」の報酬は暗号資産になるので誰にとっても同じ額という点が大きいでしょう。日本での5万円より、フィリピンでの5万円のほうが価値があります。生活水準の低い国、給与所得の低い国のほうがインパクトが大きいわけです。「Play to Earn」で稼ぎたい人、つまりスカラーサイドの人は東南アジア、南米、アフリカが多いですね。スカラーを雇うサイドは日本、シンガポール、北米、欧州などです。こういったGameFiにより、世界中の富の再配分が進んでいます。国境に関係なく、富裕層のお金が貧しい人たちに配られているんです。
Web3におけるNFTゲームは生きがいを実現する手段になる
コンセプトは、職業を擬人化したキャラクターを呼び出して戦うシンプルなカードバトルのNFTゲームです。現在主流になっている「Play to Earn」を世界で初めてサービス化したプロジェクトで、発行している「DEAPcoin」はSBIグループの取引所「BITPOINT」で唯一日本円に換金することができます。
日本国内の著名なマンガ家やイラストレーター100名以上にご参加いただき、オリジナルのNFTアートワークも販売しています。例えば、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』の萩原 一至先生が描いた宇宙飛行士のカードは100枚限定で、価格は30万円ですが完売しています。NFT作品は既存のイラストやアート作品と異なり、二次流通、三次流通でも作者に利益が入ってくるのがメリットです。
歌われるごとに印税が入ってくるカラオケと同じですね。イラストやアートは1度きりの買い取りが当たり前でしたが、ブロックチェーン技術により未来に対する夢が持てる時代になったといえます。クリエイターが未来に希望を持てるようになれば、その絶対数も増えて作品の質が上がって競争が激しくなる。結果的に良質なコンテンツが生まれて、ユーザーの体験価値も高くなるでしょう。
――『ファイナルファンタジー』シリーズの天野 喜孝さん、『キャンディ キャンディ』のいがらしゆみこさんなど錚々たるビッグネームが並びますが、どのように協力を得たのでしょうか?
2018年から2019年にかけて皆さんにお声がけをしたのですが、当時はNFTもブロックチェーン技術も一般的にまったく知られていない時代でした。「クリエイターの世界を変える可能性があること」「後進のためになること」を必死にお伝えして、なんとかご協力いただくことができました。
――「X to Earn」によって社会はどう変わるとお考えですか?
JobTribesをリリースして2年以上が経過しましたが、インドネシアやフィリピンからスカラーシップ制度で救われたという多くの声をいただいています。誰もが持っていた、人に対してよいことをしたいという気持ちが、ゲームを通して、国境を越えて具体的な感謝の言葉をもらう体験につながっているのは素晴らしいことだと感じています。
Web3におけるゲームはメタバースそのものになっていくと、僕は考えています。2014年にマークウィンというブロガーが日本に伝わる「生きがい(IKIGAI)」についてベン図で表現したブログが話題になりました。これを僕流に訳すと、「自分が好きで得意で、社会的に求められ、稼げるものがあれば、それは生きがいになりうる」ということです。しかし現実の世界では国籍や言語、人種や住む場所といった制約によって、生きがいを実現するのは困難です。
それらの制約の影響を受けず、誰もが自由に好きなことに取り組める場所、それがメタバースです。Web3時代のゲームは、誰もが生きがいを満たせる場所としてメタバースと同一化していくと予想しています。
山田 耕三
Digital Entertainment Asset Pte.Ltd. Founder&Co-CEO
戦略構築とコンテンツ事業、メディア事業統括を担当。プラットフォーム事業「PlayMining」でのコンテンツ開発とNFT企画を手掛ける。NFTの可能性と有用性を啓蒙するYouTubeチャンネル「NFTv」Webメディア「NFTnavi」を運用。新しいNFTランナップ「DEPARTURE」を通じて、アーティストを始め多くのクリエイターがNFTの世界に飛び込むことを応援するのが目下の目標。NFT Awards 発案者。
テレビ東京で15年間 音楽・バラエティ番組のプロデューサーを務めた経歴を持つ。
東京大学 法学部出身。