中国最前線

中小企業のグローバル進出を支援する 深圳のITベンチャーを牽引するTechtemple×オプトグループの歩み<後編>

今や「デジタル大国」として知られている中国。その急速なデジタルシフトを支えているのが、IT機器の工場が集積し、今や中国のシリコンバレーとも呼ばれている「深圳」だ。無人コンビニ、自動運転バスなど、新しいサービスの社会実装が著しいこの街に、オプトは2014年から中国ビジネスの拠点を置いている。
現地パートナーとして提携しているのは、中国のスタートアップインキュベーション「テックテンプル」。主にテクノロジー関連のベンチャー支援を行う企業であり、中国のインキュベーターの先駆けとして知られている。この「テックテンプル(科技寺)」が深圳の急速なデジタルシフトに大きな影響を与えているのである。

今回、その代表であるジェリー・ワン(王灏)氏が来日。深圳オプトの代表であり、オプトホールディンググループ執行役員・吉田康祐氏と、海外事業推進室ゼネラルマネージャーの李 延光氏とともに、テックテンプルとオプトの提携が目指すものについて話をうかがった、インタビューの後編をお届けする。

>インタビュー前編はこちら

■中国のスピード感に乗り遅れるな

――前編では、ジェリーさんから「日本と中国の企業の『いいもの』を組み合わせれば、もっと面白いことができるはず」というお話がありました。その「いいもの」とは、それぞれ何だと考えていますか?

ジェリー:中国のいいところは、人口が多いので、巨大な市場があるということ。それからテクノロジー、特にモバイルインターネットの領域では世界的にリードしているので、たくさんの面白いアプリやサービスがあります。日本のいいところは、匠の精神ですね。ひとつのものに対して、細部までものすごくこだわる。それからクリエイティブな発想です。どちらも中国にはなかなかないものなので、これに中国の市場、それから中国の先進的なサービスと組み合わせることができれば、画期的なものができるのではないかと考えています。

――これは吉田さん、李さんのおふたりに聞きたいのですが、そのような前向きな関係を中国企業と結んでいくうえで、日本企業が変わらなければならない点はなんでしょうか?

:やはりスピード感です。中国の発展はものすごく早いので、従来の日本の経営のやり方では追いつくのが難しい。「持ち帰って本社と検討します」では、検討している間に市場が変わって、そのやり方が通用しなくなってしまうかもしれない。そのくらいの中国市場というものは激しく移り変わるので、まずやってみないとわからないことが多いんです。

――実際、オプトグループも中国のスピード感に合わせて変わろうとしている?

吉田:変わろうとはしていますが、やはり日本の企業ではあるので、中国企業と比較するとどうしても遅くなってしまう思います。ただ、遅いといっても、いくつかのパターンがあります。一番ダメなのは、現地で「検討します」と言って時間がかかること。「やります」とまず言うことが大切です。やる前提で検討に入るのと、やること自体を検討するのとでは、中国企業からの見え方が違う。

「検討します」だと意思決定に時間がかかっていると思われる。でも、「やります」であれば、プロセスに時間がかかっているのだと説明することができるんです。ちょっとした違いですが、先方の納得感がまったく違います。

■GEOPというビジネスプラットフォームが目指すもの

――Techtempleとオプトグループの提携では、「GEOP(Global Entrepreneur Open Platform)」というグローバルなビジネスプラットフォームを築いていくことが発表されています。この「GEOP」という取り組みについて教えていただけますか?

ジェリー:これまでグローバル展開する企業とは、ほとんどが大企業でした。しかしモバイルインターネットが発達したことで、中小企業もグローバル化できるようになり、グローバル化しなければ、大きな成功を収めることが難しくなっています。だから今、アプリやモバイルのサービスを提供している会社というのは、すごく積極的に海外展開をしようとしています。これは中国の企業もそうだし、ほかの国の企業もそうです。

しかし、中小企業は従来の大企業とは違い、海外進出に使えるリソースが非常に限られています。だから私たちが、GEOPというプラットフォームを通じて、中小企業のグローバル進出をサポートしたいと思っています。

具体的に何をするか。たとえば、中国企業が日本に進出したい。そのために日本市場でPRをしたい。でも、人脈もなければ、日本のコンサルティング会社にサービス料を支払うことも難しい。だから、どの企業に頼んだらいいのかわからない。そこにGEOPがあれば、オプトグループを経由して、日本のいろんなPR会社を紹介することができます。反対に日本企業が中国に進出するときは、Techtempleが中国の窓口として、いろんな企業を紹介します。

これは中国と日本だけではありません。Techtempleはシンガポールにも、アメリカにも拠点があります。オプトグループと一緒に東京にも拠点を作るかもしれません。そうやってアジアから、グローバルにビジネスのプラットフォームを広げていくことを目指しています。

――ということは、今後は中国と日本だけでなく、ほかのいろんな国からもGEOPに参画する企業を募っていく?

:そうですね。業種もテック系だけでなく、もっとさまざまな業種のパートナーを増やしていきたいと思っています。

■海外進出では現地パートナーが必須

――そのように中小企業のグローバルな展開を支援しようとしているジェリーさんから見て、日本から中国に進出したいと思っている企業にアドバイスをするとしたら?

ジェリー:これは日本や中国に限ったことではありませんが、海外に進出する場合、まず国ごとの文化の違いを理解することが必要です。仕事のやり方、コミュニケーションの取り方、全てが異なります。つまり、現地パートナーは必須です。何もかも自分たちだけでやりたいと思っても、それは無理です。まず初めにすべき事は現地パートナーを探す事。これは私の心からのアドバイスです。

:たとえば日本であるサービスを展開したいと思っても、それは日本の法律では難しいということがあったりします。そういうことも含めて、現地パートナーが全般的にサポートしていきます。

――もうひとつお聞きします。中国はデジタルシフトの先進国と言えますが、そこから一歩遅れてしまっている日本企業が、中国のようにデジタルシフトを推進していくために、何が必要でしょう?

ジェリー:これは私の個人的な考えです。ひとつには国の問題があります。中国はすべてがゼロからのスタートでした。だから、何でも新しいものを試してみるしかなかった。しかし、日本は既存のものができあがっているところから、デジタルシフトをしようとしている。確かに、ここから新しいことを始めるのは、大変かもしれません。

中国のデジタルシフトが、なぜこんなに早く進んだのか。たとえばモバイル決済です。もともと中国の伝統的な決済の手段というのは、非常に限られていました。現金以外は銀聯カードくらいしかありませんでした。しかし、スマートフォンが普及したら、国の応援もあり、モバイル決済が一気に発展しました。そして、モバイル決済が普及したことで、モバイルインターネットのサービスも一気に普及していったのです。日本とは状況が違います。

とはいえ、問題は国の政策の違いだけではありません。民間の経営者にも違いがあります。中国は経営者もユーザーも、新しいものに対してすごくチャレンジ精神があります。まず自分で体験してみたいと思う。日本の場合は新しいものが出ても、すぐには挑戦しようとせずに周りの様子を伺ったりする事が多いように思います。
もうひとつ事例を挙げましょう。日本企業の強みは匠の精神にあると思いますが、たとえば携帯端末を作っているメーカーであれば、端末の完成度を上げれば、それでいいと思っているのではないでしょうか。これが中国企業だと、端末の付加価値になるサービスをいかに提供するかを考えます。

ものづくりだけでなく、中国ではショッピングセンターや百貨店といった小売りでも、デジタルシフトの時代に、どうやってインターネットを活用した付加価値をモノの販売に加えることができるかということをものすごく考えています。今後日本でもそういう「運営」の考え方というのが増えていくのではないかと考えています。

■中国だって、デジタルシフトは始まったばかり

――匠の精神は確かに日本の強みではあるけど、デジタルシフトを進めるためには、そこに「サービスを運営する」という視点を加えてくことが必要である、ということですね。

:これは中国企業を視察すると本当に実感します。中国のある自動車ベンチャーを訪問したときに驚いたのは、彼らは自動車そのもので儲ける気がないということです。彼らが言っていました。自動車は原価ギリギリで販売して、あくまで収益のメインは自動車周辺のサービスによるものだ、と。

ジェリー:ものづくりを完璧にすれば消費者は納得するだろうと考えるのは、レストランは美味しい料理さえ作っておけばいいのだという考え方と似ています。もちろん、中国のレストランでも料理が美味しいことは大切です。

でも、同じくらいお客さんにリピートしてもらうためにはどうしたらいいか、料理以外のところでもできることはないか、経営者がものすごく考えます。そのとき、いつでもお客さんとつながることができるインターネットという手段はとても有効です。だから、料理を提供するだけでなく、インターネットでどんなサービスをしたらお客さんに喜んでもらえるかということを考えるのです。

:日本のメーカーは主に代理店経由でお客さんと接するので、エンドユーザーのことがそんなにわかっていないのではないかと感じることがあります。中国の企業も、もちろん代理店は使いますが、消費者と直接コミュニケーションをとりたいという意識がものすごく強い。代理店から提案されたからやるのではなく、中国の企業は売り上げにどれだけ貢献するかはわからないけど、お客さんの声を知りたいからと、エンドユーザー向けのプロモーションをよくやるのです。ブランドはそうやって作られていくのだという意識が、中国の企業にはありますね。

――今回は日中のビジネスの違いについて主にうかがってきましたが、ジェリーさん自身の目標はなんでしょうか?

ジェリー:中国をデジタルシフト先進国と評してもらいましたが、実は私は、中国のデジタルシフトは今やっと始まったばかりだと思っています。これからの中国のキーワードは、産業化インターネット(※)にあると思います。今まで発展してきたのは、ユーザーインターネットです。正直、もうこの分野の成長は天井に来ていると思います。

※ICT技術を活用して生産性の向上やコスト削減を支援する産業サービス。さまざまな製品から稼働データなどを収集して分析し、運用・保守や次の製品開発に活かすことによって、製造業のビジネスモデルを変革しようとする

あとは人工知能、バイオテクノロジーです。そこは中国がこれからの爆発発展分野です。だから私は、これらがどう発展していくかに興味があるし、そのサポートをしていきたい。だから先ほどの質問には、「やりたいことは、まだまだたくさんあります」と答えますね(笑)。

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