イノベーション

なぜ今音声メディアが熱いのか。VR時代にVoicyが音声メディアに挑むワケ。

「声」を「デジタル」と掛け合わせ、音声配信のためのインフラの構築に取り組むVoicy緒方氏へのインタビューを記事と音声の両方で公開。
人と人とのコミュニケーションの要である「声」を「デジタル」と掛け合わせ、音声配信のためのインフラの構築に取り組む株式会社Voicy。提供している音声配信サービス「Voicy」は、立ち上げからわずか3年で累計利用者数320万人を突破し、日本経済新聞とも提携するなど、日本の音声メディア市場を大きく変革している。

この「Voicy」というサービスは、著名人だけでなく、ビジネスの専門家やインフルエンサーなど様々なジャンルの人の専門的な話や面白い話を聞ける新しいメディア。他にもニュースメディアや企業のオリジナルチャンネルなどもある。文字の時代は終わり、デジタルテクノロジーを使った「音声時代」がもうそこまで来ていると語る、代表取締役CEOの緒方憲太郎氏に、音声が企業にもたらすソリューションや、今後の社会における音声インフラの発展性についてお話を伺った。
▼取材音源をVoicyで公開中

「VR時代に音声なんか」と揶揄されたスタートアップ

ーーVoicyを立ち上げようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

緒方:デジタル時代の音声インフラを生み出し、コンテンツを作る必要性を感じたからです。
情報の流通経路には、手で作って目から入れるか、口で作って耳から入れるという2通りしかありません。今まで前者ばかりが発達してきましたが、実は口から耳に伝える方が本人性や感情を伝える手段としては有効なんです。孤独を感じる人が多い現代社会には、そちらの方がずっと刺さるだろうなと考えていました。

ただ、後者が中心の社会になるにはまだインフラが成り立っていないのが問題。例えば、ついこの前まで、イヤホンのコードに不便さを感じていたり、耳で聞くコンテンツを目と手で操作しないといけなかったりしていましたよね。それが今はワイヤレスイヤホンになり、声で操作できるようになった。

性能が良いワイヤレスイヤホンと、音声操作が可能なOS、そしてどこにいてもネットにリーチできるIoT機器。その3つが揃った時、世の中のインターフェースが大きくシフトすると確信していました。近い将来必ず、「昔の人は画面の前に座っていないと情報を得られなかったなんて」と次世代の若者が笑い話をする時代になると。

しかしそうなった時、今の社会には肝心の音声を配給するインフラがありません。そこで我々は、生活インフラである水道管のように音声配信の網を張る役割を担おうと考えたんです。

もう一つ、配給するコンテンツ量が絶対的に足りていない問題もありました。面白い話ができる人は大勢いるので、価値あるコンテンツを活かす配信の場を作るべく、ボイスメディア「Voicy」のサービスを立ち上げました。

ーー立ち上げ当初に感じた課題や苦労があれば教えて下さい。

緒方:まだ社会的に認知されていない取り組みだったので、周りからなかなか認めてもらえなかったことですね。当時は、この動画やVRの時代に音声なんかで事業を起こすのかと大分心配されました。ラジオと違って編集もなければ音質も良くないですし、どこの誰か分からないような人達がしゃべっているのは、既存のメディア業界の方が有り得ないと感じるのも無理は無いと思っていました。

リスナーは喜んでくれていることを知っていたので、なかなか認知度が上がらなくても個人的には焦りはしませんでしたが、社員には申し訳ない気持ちが大きかったですね。社会的に認知度が低い会社にいるという状況にさせてしまっていたので。それでもここを選んで戦ってくれている社員に、良い思いをさせたい、働いていて良かったと思ってもらいたいと、なんとしても事業を形にしようとここまで走ってきました。

リリースから2年ほど経ち、ユーザー数が一気に増えたタイミングで周囲の反応がガラッと変わりました。今は、資金調達も成功しマーケットとして認知されるようになってきています。

「しゃべる」という最も日常的な行為とデジタルを掛け合わせる

ーーコンテンツとして工夫している点はどのようなものですか。

緒方:もともと「しゃべる」というのは最も日常的な行為のひとつ。それを新しくて面白いコンテンツと感じてもらうためには、面白い配信ができる「ヒーロー」の存在が必要です。そのため、配信者であるパーソナリティとなるためにはエントリー制を設けています。

配信者であるパーソナリティは著名人だけでなく、ビジネスやその分野の専門家、ミュージシャン、インフルエンサーなど幅広く、年齢もバラバラですが、人を惹きつける面白い話、ユニークな話、役に立つ話ができる「魅力的な人」であることが重要です。また、グチを吐き出す場にはしたくありません。そういう意味でもCGM型ではないエントリー制にはネガティブな内容の頻発を防ぐという意味合いもありますね。

リスナーは通勤途中や家事や子育ての最中など「ながら」で使われている方も多いです。別のことをしていても情報が入手できるのは音声の強みだと思います。

「ながら使い」ならスキルやノウハウについて知れる「お役立ち系」のコンテンツが多く聞かれ、寝る前には優しい語り口のトークや芸人さんの小話などホッと一息つけるようなコンテンツが聞かれるなど、日常の中でいつどんな風にどんな情報が求められているのか解析し、活用するのも我々の役目です。

音声配信は熱量の高いファン「ロイヤルカスタマー」創成に有効

ーー企業の音声コンテンツ活用の成功例を教えてください。

「Voicy」では個人パーソナリティのほか、企業や団体などがユーザーや社会とのコミュニケーションのために開設する法人チャンネルもあります。ある企業さんで、Voicyを利用した社内報の音声配信を始めてから社内コミュニケーションが活性化した例があります。

そこで新たにクローズド機能を持たせた企業チャンネルをサービス化し、目的に応じてオープン型とクローズド型を選べる企業向け音声ソリューション「VoicyBiz」を10月にリリースしました。クローズド型の「声の社内報」では、社長の日報や役員同士がカジュアルに会話している対談などを社内だけに音声配信できるようにしたんです。音声にすることで、話しているときの感情やその人の頭の回転の良さなんかがダイレクトに伝わるので文字の時よりも親しみがわきやすいんですね。新入社員のインタビューで熱量を感じたり、デジタルなのに温かみを感じたりすることができるリッチなコンテンツになるんです。

声の社内報に関しては企業からの問い合わせも多く、社員のエンゲージメントを高める意味でも有効な活用法だと思います。Googleの社内報も音声のようですし、海外ではずいぶん前から注目されています。

また、音声コンテンツは、熱量の高いユーザー、いわゆる「ロイヤルカスタマー」を生み出すのにも有効なのです。

音声配信サービスを初めてみて、驚いたのはリスナーからの反応の大きさでした。「何度も聞きました」「感銘を受けました」といったポジティブな反応が、テキスト記事の何倍もあったんです。そうなることはもともと想像がついていました。ラジオ通販の返品率が低いというデータを見たりしていて、声を聞くことで相手を信じたり、好きになったりする可能性は高いと感じていたからです。

今までのWebコンテンツの場合、とにかくPV数やフォロワー数を増やすことばかりが重要視され、数だけのライトユーザーを稼ぐ仕組みばかりが着目されてきたように思います。しかし、企業にとって本当に大切なのは、より熱量を持って支持してくれるファンの存在です。そんなロイヤルカスタマーを生み出せれば、家や車など高価な買い物もネットで行なってもらえるかもしれませんし、一時的ではなく、長い間自社ブランドを愛用し続けてもらえるかもしれません。

実際に、ツイッターでフォロワー数が伸びなかったVoicyパーソナリティの方が、有料制のオンラインサロンを立ち上げたら一気に100名以上の会員を集めたり、パーソナリティとして活躍されている方が著書を発売したらものすごく売れたということもありましたね。

音声メディア時代を牽引し、なくてはならない存在に

ーー最後に、今後の展望を教えて下さい。

緒方:VoicyはいわばCPUのような存在にならないといけないと考えています。CPUは、パソコンやスマホなどあらゆるコンピュータの核となって働き、いまや社会の基盤を支えています。同じように、我々も新聞社や医療、交通など、実際に人と繋がっている様々な事業の方たちと組み、音声活用のサポートをするのが目指す形です。

最近では、日経新聞さんが協業企業として名乗りを上げてくれました。経済情報を届ける新しい手段として「音声」に着目し、その最適な活用方法を一緒になって考えている状況です。他にも様々な企業の方に参入のメリットを感じてもらえるよう、現在も音声インフラ構築の開発を進めています。

これからの社会は音声インフラの整備が進み、パソコンも手ではなく音声入力が当たり前の時代が来るのだと思います。それに伴って人に求められる能力も変化していくはずです。誤字脱字がない分かりやすい書類より、論理立てて話すことができる人の方が評価されるようになるかもしれません。反対にしゃべらないで指示書だけですませる人をドライと感じる世の中になるかもしれません。働き方改革が叫ばれていますが、少ないコミュニケーションで社員のエンゲージメントを上げるためにも音声は適しています。

Voicyの場合、内定通知も音声で送っているんですよ。とても評判が良くほぼ100%の入社率です。テクノロジーは効率の良さを生み出すだけではなく、心を伝えるのにも活かされるのだという良い例だと思います。

家電やスマホの音声操作が当たり前になる時代で、音声のメディアができるのは当然の流れ。スマホが普及し始めた時のように二の足を踏んでいると、ビジネスチャンスに乗り遅れて時代に取り残されて行ってしまいます。そんな時代を牽引する存在として、今後も音声インフラを活用した未来を提案していきたいと思っています。

プロフィール

緒方 憲太郎(Kentaro Ogata)
株式会社Voicy 代表取締役 CEO
大阪大学基礎工学部卒業後、大阪大学経済学部卒業。同年公認会計士合格。2006年に新日本監査法人へ入社。その後Ernst&Young NewYork、トーマツベンチャーサポート、にてスタートアップから大企業まで経営者のブレインとなるビジネスデザイナーとして多数の会社を支援。現在も5社以上のベンチャー企業の役員や株主として参画中。2016年次世代音声市場のリーディングカンパニーの株式会社Voicy創業し、新しい音声文化づくりとワクワクする価値を生む会社づくりに挑戦中。