超デジタル大国・中国を通して見える日本への危機感 「究極のユーザーファースト」を追及する最新の中国デジタル化事情

2030年にはGDPで世界ナンバーワンになるとも言われている中国。
頭文字を取り「BATH」と呼ばれる、中国発の大手テクノロジー企業4社(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)を中心に急速なデジタル化が進んでいる。
前編では、中国が急速に「デジタル大国」となった背景にある「3つの国家戦略」について、中国ビジネス事情に詳しい株式会社オプトホールディンググループ執行役員・吉田康祐氏に伺った。後編となる今回は、具体的な中国のデジタル化事情を吉田氏に解説していただく。

レジ横にアプリが乱立する日本との大きな違い 中国が超キャッシュレス社会に変貌した理由

中国にはデジタル化が進んでいる分野は多いが、先ず挙げられるのはキャッシュレスだろう。大きな店舗だけでなく小さな露店など、ありとあらゆる場所でQRコード決済ができる。

日本でもようやくQRコードで決済できる店舗が増え始めているが、吉田氏は中国と日本とは同じ「キャッシュレス化」でも大きく違うと指摘する。

「キャッシュレスは中国内で2014年頃から始まったサービスですが、使えるQRコードは2つしかありません。日本のようにレジ横に20個ほどのアプリロゴが張り出されていてどれで会計するかに迷う客と、アプリごとに異なる端末での処理を強いられる店員が向かい合い、両者とも手間暇かけなければ会計を終えられないといったシーンを見かけることはありません。非常に利便性の高いシステムが出来上がっています」とのことだ。

さらに、中国のキャッシュレスサービスは、サービス上のログを積み上げることで、個人のランク付けが可能になるまでに進んでいる。信用が可視化されるので、ユーザーもキャッシュレス決済に積極的になる。つまり、口コミに代わる評価の新基準として定着しつつあるのだ。
出典元:アフロ

トヨタも食指が動いた「自動車のデジタルシフト」

中国は自動車のデジタル化にも積極的だ。北京、上海、重慶、浙江省の杭州などの主要都市が『自動運転実験区』に指定されている。その指定地区内を走る車はすべて自動運転車となっており、政府主導で車と街の一体化を目指している。

吉田氏は「複雑な道路事情に対応する効率的な走行を可能にし、より理想的な都市開発を推進しようと目論んでいるようだ」と分析する。

また、トヨタの豊田章男社長は今春、北京の清華大学で講演した際に、2019年中にトヨタと清華大学で自動運転等の共同研究センター(清華大―トヨタ連合研究院)を設立することを発表した。さらに、発表後の6月には、電気自動車の進捗についての説明会を開き、力を入れていることを強調した。

この発表について吉田氏は「何より衝撃だったのは、豊田氏がいよいよ『EV車・10ブランドを中国へと投入します』と言及したことです。世界的な、日本企業であるトヨタの初のEV車の投入先が中国になるとは、以前なら想像もしなかったニュースですよね。日本ではまだまだガソリン車が主流ですが、中国は既にEV大国です。だからこそトヨタのこの決断は日本企業の未来を左右することになるかもしれません」と語る。

オフラインとオンラインを融合、新たな顧客体験を創造する「ニューリテール」 中国小売業の急先鋒「フーマー」

出典元:アフロ
国をあげて急速なデジタル化を進める中国の次なる一手は何なのだろうか?

吉田氏は「アリババのジャックマー氏が打ち出す「ニューリテール(新小売)」なる新ビジョンが象徴的です」という。
「『ニューリテール(新小売)』とは、近い将来、Eコマースという概念がなくなり、オフラインとオンラインの垣根を超えた新たな業態が主流になるというもので、伝統的な小売業でも伝統的なECでもない業態です。その先駆けモデルといえるのが、中国の大手IT企業・アリババが手がけるスーパーマーケット『盒馬鮮生(フーマー))です」。

フーマーの店舗は、商品を体験・体感できる場であり、かつ倉庫の役割を担っていて、客は店舗にいてもいなくても、つまりオンラインでもオフラインでもスマホアプリから商品を注文し、アリババが提供するQR決済アプリ「アリペイ」でのみ購入が可能というシステムだ。

体験・体感するために来る客のために、生鮮食品が多く陳列されているのが特徴で、大きな生簀で魚が泳いでいるなど、もはやエンターテインメント化している。

また、3キロ圏内であれば、30分以内でバイクデリバリーをしてもらえるサービスもある。オーダーが入ると店内から店員が商品を専用バッグへ集める。そのバッグは、天井に張り巡らされたレールを伝ってバックヤードにいるドライバーの元へと運ばれて行くのだ。このデリバリーサービスは店に出むいた客も利用できるとあって、まさにオフラインとオンラインの垣根を超えている。

吉田氏は「このような、インターネット企業がリアルな店舗を出すというトレンドは今後広がっていくと思われ、日本への上陸をも予感させます。このケースにおいてリアルな店舗が持つ意味は、フーマーのように『顧客体験してもらう』ということ。フーマーの店員に『あなたのKPIは?』と聞くと、売り上げではなく『アプリのダウンロード数』だと答えるんです。店頭で体験してもらって、アプリをダウンロードしてもらえれば上客になる可能性が高いからです」と予測する。
出典元:アフロ

デジタル大国「中国」を通して見える日本への危機感

中国のデジタル化を見た上で吉田氏は、「日本は中国に3年ぐらいの遅れをとっているように思う」という。

その理由について、「発想自体はそんなに遅れてはいないはずなんです。キャッシュレスは、既に日本でも導入されています。ただ、ユーザーに届くまでにかかる時間が圧倒的に長いんです。サービスが乱立していて、使い勝手は決してよくなく、いまだ議論も続いているのが実情。これが3年程度のブランクを生んでしまう原因ではないかと考えています。国や企業の体質、国民性なども影響しているでしょう」と分析している。

また、自身の体験として「最近では知人の中国人に冗談半分で『昔、日本は世界でトップだった。世界中の企業がこぞって日本語を学び、日本と取引をしたがりました。でも、今や日本はトップではありません。中国と取引したいでしょう?なぜ日本人は中国語を学ばないんですか?』と言われてしまうなんてこともしばしばです」と明かす。

さらには、「『トラベラーが日本で、自国での日常通り、あるいは日常以上の体験をできるでしょうか?』とも。これは、『アプリを含めて、外国人が自国で使用しているサービスをそのまま使えないといった事態が起こると、たちまちストレスを感じることが多いのではありませんか?キャッシュレスしかり、受け入れは大丈夫ですか?』という意味です」と、東京五輪を前に、デジタル大国を通して見た日本への危機感を語った。

プロフィール

吉田康祐(Kosuke Yoshida)
株式会社オプトホールディンググループ執行役員、香港オプト、深圳オプト代表取締役社長。学生時代より中国に興味を持ち、中国語を学ぶ為に拓殖大学外国語学部中国語学科に入学。在学中の2000年に北京に交換留学生として留学を経験。2004年に株式会社オプト(現オプトホールディング)に入社、営業時代に社内MVP受賞、その後営業責任者、メディア責任者を務め、2010年より執行役員に就任、マーケティング事業を管掌。2015年4月に株式会社オプトホールディング上席執行役員に就任、中国事業を管掌。2019年4月よりグループ執行役員として、新規事業立ち上げをミッションとしたデジタルシフト創造領域を管掌。またデジタルハリウッド大学大学院で客員教授を務め、インターネットマーケティングの普及にも力を入れている。