経営・戦略

デジタルシフトは組織のトップではなく、現場のために必要だ

ブランドリユース業界の大手「コメ兵」。実は同社は、2000年代の初頭からデジタル対応に取り組み、ECサイトにオウンドメディアの活用、社内にチャットツールの導入、そして現在は真贋判定にAIの導入を発表するなど、業界の中でデジタルシフトをいち早く進めてきた。
同社の執行役員マーケティング統括部長である、藤原義昭氏に、デジタルシフト・オムニチャネル化をどう推進してきたかを聞いた前編を経て、後編は組織をデジタル化していくために必要なことを伺った。
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■デジタルはお客様との接点を増やす貴重な機会

――前編ではデジタルシフトを推進していくうえで、社内の意思統一を図る大切さについて教えていただきました。店舗もデジタルも協力し合う仕組みが必要だという感覚が藤原さんにあるのは、ご自身が店舗の販売出身で、現場の苦労がわかるということも大きいでしょうか?

それはありますね。私は1999年にコメ兵に新卒で入社して、最初はジュエリー事業部にいました。販売もやったし、鑑定の勉強もしました。自分たちの店舗に対して、現場の人たちがものすごく強い思い入れを持っているということはわかっています。その一方、2000年にECサイトをゼロから立ち上げたくらいなので、デジタルでお客様とコミュニケーションをしていくことの大切さもわかる。

結局、なぜデジタルを活用しなければならないかというと、単純にお客様との接点を増やせるからなんです。仮にお客様が平均で年2回来店するとして、そこにデジタルの接触を加えることができたら、もっと深く仲良くなれる機会を増やせるわけです。

だから我々は、ECサイトで毎日新しい商品を出すということをやっています。正月にも更新しています。お店は休むことがあっても、ECサイトを更新し続けることで、お客様が商品に触れる機会、コメ兵に触れる機会を増やす。それが結果的に、商品の購入にもつながっていくと思ってやっています。

――「トケイ通信」や「ブランドブログ」のようなオウンドメディアを運営されているのも、顧客接点を増やす戦略の一環ということでしょうか?

そうです。「トケイ通信」に関して言えば、どの会社にも、その道のプロフェッショナルはいますよね。彼らの知識はお客様にとってすごく役に立つ情報だし、尊敬されるきっかけにもなると思います。でも、会社で日々の業務に励んでいる側からしたら、その知識は仕事をしていくうえで当たり前に身につけたものに過ぎない。特別な価値があるとわかっていないんです。

彼らの知識をお客様とのコミュニケーションに活かすことができたら、絶対にいいと思っていたんですけど、基本的には1対1の接客のときくらいしか披露できる機会がなかったんですよね。でもインターネットの記事というかたちであれば、広く発信することができます。

だから、実際に「トケイ通信」を見ていただければわかると思うんですけど、開始当初からずっと、時計鑑定士の人が自分で書いている記事しか載せてないんですよ。店舗の接客と同じ言葉でコミュニケーションすることが重要だと思ったので、あえて素人の文章をそのまま載せています。

■商品では差別化できないから人で差別化する

――確かに「トケイ通信」を見たとき、高級品を扱う企業のメディアのわりには、全然飾ってないなという印象がありました。でも、それがかえって企業の中の人の人柄とか、商品へのこだわりが見える効果を生んでいて。

作られた感じよりも、リアルにその人を感じられるようなものがいいと思ったんですよね。だから、お客様のニーズがある記事を書いてくださいと言ったこともないんですよ。とにかく時計について、自分が好きなことを書いてくれとだけ言っています。

――そういう方針をとったのは、商品の豪華さではなく、それを売る“人”で差別化しようという意図があった?

リユースがほかの業界と違うのは、自分たちでものを作れないということです。私たちは世の中ですでに売られているものをきれいにメンテンスして出すということをやっているだけなので、最初からお客様は「コメ兵」という企業名で弊社を選ぶわけじゃないと思うんですよ。自分がほしいブランドや商品を探していてたどり着くのだと感じます。

ロレックスもエルメスも、弊社以外の競合企業様でも売っているし、お客様の選択肢には新品だってある。もの自体では差別化できない。その中でコメ兵を選んでいただくためには、ほしいもので入ってきたお客様に対して、弊社が信頼できる企業だとしっかり伝えないといけないんですよ。

――販売に関わる人の人柄が見えると、消費者としても安心感が違いますからね。

そう考えていくと、私たちにとっての理想は、やはり店舗で買っていただくことなんです。お客様が一番がっかりするのって、買ってみたものの失敗だったときじゃないですか。特に高級品はそのダメージが大きい。だから慎重になる。その不安をデジタルのコミュニケーションだけで払拭するのは難しいと思っています。でも、店舗では一品一品について細かい説明ができるわけです。だからECサイトよりも、店舗で売りたいのです。

■店舗の強みを引き出すためにデジタルを活用する

――その意味ではコメ兵にとってデジタルというチャネルは、もちろん商品を売る場ではあるけども、それ以上にコメ兵というブランドをいかに印象づけ、来店につなげていくかということが大切になっているということでしょうか。

結局、次につながるのは「ここで買ってよかった」と思っていただけるかどうかなんです。私は顧客満足には2つあると思っていて、ひとつは機能的満足、もうひとつは感情的満足です。

機能的満足とは1円でも安く買えるということ。でも、それで満足される方っていうのは、もっと安いところがあれば、そこに行ってしまいます。だけど感情を満足させることができれば、よほど価格に開きがないかぎり、「あそこで買おう」となるんです。

その感情的満足をデジタルでも与えていければ、わざわざ店舗に来店していただくことができると思っています。それを実現するために、私たちはデジタルにリソースを割いているんですよ。

――それはやはり、コメ兵というブランドの魅力を最大限に感じてもらえるのは、店舗だという自負があるからですか?

それはあります。

――そうなると、今後は店頭買取の真贋判定にAIを導入されるというニュースもありましたが、これも単純に業務の効率化を目指すというだけではない?

何のために効率化するか、ということですね。実は買取のプロセスって、真贋、値付、情報入力…とけっこう長いんですよ。1点あたり早くても5分、高級品や多数持ち込みとなると1時間かかるケースだってあります。鑑定士は、お客様とコミュニケーションをとりながら、査定をしますが、どうしても、業務に集中してしまう時間は発生してしまいます。この時間がすごくもったいない。

でも、ここにAIを活用することでコミュニケーション以外の作業の部分を短縮できたら、鑑定士とお客様が接する時間に費やすことができます。なぜこの値段になるのかという説明がしっかりとできることで、お客様への説明責任を果たし、コメ兵というブランドへの信頼感を高めることができるようになります。

――なるほど。病院に行って散々待たされたのに、診察自体はすぐ終わって、「あの時間はなんだったんだ……」となるのと似ていますね。

そうです。実際、大きな店舗になると、待合室があって、お客様は番号で呼ばれるまで待っているわけですよ。それに混雑していたりして「あそこは鑑定に長時間かかる」ってイメージがついてしまうと、なかなか次につながりません。それが鑑定は短時間で済んで、しかもちゃんと説明もしてくれたとなれば、大きな差別化要因になると思っています。

■デジタルシフトにはトップの戦略とボトムの危機感の両方が必要

――お話を聞いていると、コメ兵は一貫して現場の強みを最大限に活かすためにデジタルシフトを行っているのですね。最後に、デジタルシフトを行っていくために、企業に必要な心構えとはなんでしょうか?

組織のボトムから来るものとトップから来るもの、その2つが必要だと思います。ボトムには、お客様の変化に追いつくためにデジタルを使わなければならないという危機感。トップには戦略です。ロジックが組織の上から来て、感情的なものが下から積み上がっていくということを同時にやっていかないと、なかなかうまくいかないのではないでしょうか。

――そのどちらが欠けていても、うまく機能しない?

そうです。では、それをどう実現するかというと、たとえばこういうやり方があると思います。弊社では今、社内のコミュニケーションがほぼチャットになっています。これは私が提案して導入を推進しました。デジタルのツールが使えないと仕事になりませんという状態にすることが大切で、一番ダメなのは、「新しい方法と古い方法、どっちもいいですよ」としてしまうことです。

――現場はデジタルのツールでコミュニケーションしているけど、上司に説明するときはプリントアウトしたものを渡さないといけないみたいなことですね。でも、それは組織の上のほうで反発はなかったのですか?

私が役員に説明したのは、「このチャットツールを入れるのは、店舗にいる20代、30代の人たちのためであって、あなたたちのためではありません」ということです。弊社では現場の若い世代の従業員というのは、会社のマジョリティです。デジタルを使って組織の生産性を上げたいのであれば、マジョリティの基準に合わせて組織を変えないといけない。

――そして、その提案が受け入れられた。

デジタルシフトって、みんなが納得してから進めようとしたら無理なんですよ。旗振り役がうしろ指をさされても平気な顔をして進める覚悟がないといけないと思いますね。もちろん、コメ兵という会社が、若手社員のチャレンジを受け入れてくれる社風というのも大きいです。

――このメディアは若手社員というより、組織のマネジメント層やマーケティングの担当者といった読者を想定しているのですが、そんな人たちにデジタルマーケティングを進めるうえで、アドバイスはありますか?

自分よりも若手社員の声を聞くことです。でも、それは彼らの言うとおりにするという意味ではなくて、自分よりもデジタルを使いこなしている人たちの意見に、きちんと耳を傾けるということです。

そして重要なのは、自分自身がデジタルの新しいツールを使ってみることです。私は最近、「ハリー・ポッター:魔法同盟」(「ポケモンGO」の企業が今年7月より国内配信を始めたARゲーム)を始めて、レベル22までいきました(笑)。マーケターは最先端のものに触れているべきです。だって、お客様が最先端に触れているのだから、自分もそうならないと。